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「切除不能膵癌に対して免疫療法は推奨されるか?」膵癌診療ガイドライン2016年版より

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膵臓がん患者の5年生存率(治療開始から5年後に生存している人の割合)は依然として10%以下であり、消化器がんの中では最悪の成績です。

特に、はなれた臓器に転移があったり、重要な血管を巻き込んでいる切除不能の膵臓がんに対する治療には限界があり、現時点での平均生存期間は1年未満です。

最近、進行がんに対する第4の治療として、免疫療法が注目されています。なかでも抗PD-1抗体(オプジーボ)などの免疫チェックポイント阻害剤は、皮膚がん、肺がん、腎細胞がんに対して保険適応となり、従来の抗がん剤治療の効果を大きく上まわる効果をあげつつあります。

一方で、膵臓がんに対する免疫療法の効果はどうなのでしょうか?効くのでしょうか?効かないのでしょうか?現時点でのエビデンスに基づいた専門家たちの意見はどうなのでしょうか?

今回、切除不能の膵臓がんに対する免疫療法の効果について、最近改訂された膵癌診療ガイドライン2016年版を調べてみました。

がんのガイドラインとは?

ガイドラインとは、がんの診療にあたる臨床医に実際的な診療指針を提供するための本です。

簡単に言うと、エビデンス(医学的根拠)に基づいた医療や、エビデンスはないが、将来につながりそうな試みなどについて体系的にまとめた「現時点でのがんの標準的な診断・治療の手引き」といえます。

例えば治療に関しては、ガイドラインではおもに標準治療について解説しています。

標準治療とは、多くの臨床試験などの結果をもとに、専門家が集まって検討を行い、安全でかつ最も効果が高いと合意が得られている治療法のことです。つまり、エビデンス(根拠)にもとづいた現時点でのベストの治療法が「標準治療」といえます。

現在、多くのがん(乳がん、肺がん、胃がん、食道がん、大腸がん、膵臓がん、など)についてガイドラインが発行されており、その中で推奨される標準治療について詳しく書かれています。詳しくは、こちら(日本癌治療学会 がん診療ガイドライン)を参照ください。

膵癌診療ガイドライン

「膵癌診療ガイドライン」は2006年に初版が出版され、以後何度か改訂されてきました。

時代の流れと共に、がんのエビデンスも変ります。ここ数年、膵臓がんの診断・治療についても新しい診断・治療法が報告され、それによってガイドラインの内容も大きく変りました。

さて、ここでは最新の膵癌診療ガイドライン(2016年版)から、免疫療法についての項目をピックアップして紹介します。

治療法(LAC4) 切除不能膵癌に対して免疫療法は推奨されるか?

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ここでいう「免疫療法」とは、「免疫システムを利用して悪性腫瘍を制御する治療全般」のことで、つまり免疫チェックポイント阻害剤、腫瘍溶解性ウィルス、がんワクチンなどすべての免疫に関連する治療を含みます。

さて気になるステートメント(質問に対する答え)ですが、

切除不能膵癌に対して生存期間の延長を考慮した場合、一般臨床として免疫療法を行わないことを提案する(推奨の強さ:2、エビデンスレベル:C、合意率:94.9%)

ということで、現時点では「免疫療法はおすすめではない」という意見でした。

以下に、このガイドラインに取り上げられた、臨床試験の結果が報告されたおもな免疫療法について解説します。

1.GV1001(テロメラーゼ・ペプチドワクチン)

1062名の切除不能膵臓がん患者を対象に、ゲムシタビン(ジェムザール)+カペシタビン併用化学療法に対する、GV1001ワクチンの上乗せ効果を検証する大規模なランダム化第III相試験(TeloVac試験)が行われました。

GV1001は、ヒトテロメラーゼ(hTERT)蛋白の一部を標識するワクチンで、進行膵臓がん患者において、hTERTを認識する免疫細胞(CD4+細胞とCD8+細胞)を誘導することができると期待されています。

しかしながら、結果的にはGV1001ワクチンによる免疫療法の上乗せ効果を示すことはできませんでした。

2.血管新生抑制+抗がん剤免疫導入療法

低用量シクロホスファミド、高用量シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤、顆粒球コロニー刺激因子、スルフヒドリル供与体、自己血症分画由来がんワクチンからなる血管新生抑制と抗がん免疫活性化を期待する免疫療法であるが、臨床試験の信頼性そのものに疑問があるとしています。

3.GVAX+CRS-207

GVAXは顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子を分泌する同種膵臓がん細胞由来のワクチン、CRS-207は膵臓がんで強発現しているメソテリン(mesothelin)を発現するリステリア菌の生ワクチンです。

90名の進行膵臓がん患者をGVAX療法だけのグループと、GVAX+CRS-207併用療法のグループに割り付けた小規模な臨床試験では、両方のグループとも全生存期間に明らかな有意差がみられたと報告されています。

この結果をうけて、転移性膵臓がん患者を対象としてランダム化第IIb相試験(ECLIPSE試験)が行われていましたが、米Aduro Biotech社は2016年5月16日、GVAXとCRS-207の二つのワクチンを併用しても、抗がん剤治療と比較して主要評価項目である全生存期間(OS)を改善することはできなかったと発表しています。

この他にも、エルパモチド(OTS102ペプチドワクチン)IMM-101C01(ペプチドカクテルワクチン)などによる免疫療法の臨床試験の報告がありますが、いずれも効果が示されなかった(または試験のデザインや規模から信頼性に乏しい)とのことです。

まとめ

手術、放射線、抗がん治療に次ぐ第4の治療として期待されている免疫療法ですが、これまでのエビデンスでは、有効性が確立された膵臓がんに対する免疫療法はありません

しかし、中には小規模ではありますが有望な免疫療法の臨床試験が報告されていることより、今後、よりしっかりとデザインされた臨床試験(特に第III相試験)の結果が望まれます。

また現時点では免疫チェックポイント阻害剤についても膵臓がんに対する有効性を証明したものはありません。

このように免疫治療が効きにくいとされる膵臓がんですが、近年、免疫療法の治療効果を高める新しい治療戦略の研究も進んでいます。今後のさらなる研究に期待したいですね。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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