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がんになって良かったことが実感できる「ベネフィット・ファインディング」のすすめ

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多くのがん患者さんが、「なぜがんになってしまったのだろう?」と、がんの否定的な面ばかり考えてしまいます。

しかし、この否定的な感情は生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)や免疫力の低下を招き、うつ症状を引き起こしたり、治療の障害となる可能性もあります。

そこで、前回の記事では「がんの肯定的な面に目をむけることで、精神的な苦しみから解放されたり、がん治療への前向きな気持ちが生まれることが期待できる」ことを書きました。

しかし、実際には「がんの肯定的な面に気持ちを向けることなどできない」という方も多いでしょう。

今回は、「がんでも長生き心のメソッド」でも取り上げられている「ベネフィット・ファインディング」について紹介します。

ベネフィット・ファインディングとは?

ベネフィット・ファインディング(benefit finding)とは、文字通り「恩恵(利点)を見つけること」であり、「ネガティブな出来事(経験)によってもたらされる恩恵や肯定的な面を見つけること」、あるいは「苦しみを経験することで、それまでは何でもないと思っていた出来事に意味と価値を見出す過程」と解釈されています。

簡単にいうと、「悪い(つらい)出来事(経験)の中のいいとこ探し」です。

このベネフィット・ファインディングですが、これまでの研究では、心身の健康や人生の満足度を高め、逆に抑うつの程度を低下させるという報告があります。またがん患者におけるベネフィット・ファインディングの効果についても研究がすすめられています。

がんにおけるベネフィット・ファインディング

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前回の記事で、がんの肯定的な面に目を向ける重要性について書かせていただきました。

がんにもメリットがある?「がんになったこと」の肯定的な面に目を向けてみる

しかし実際には、「四六時中がんの否定的なイメージばかりが頭に浮かび、どうすることもできない」とおっしゃるがん患者さんが多いのが現実です。

どうしたら肯定的な面に目を向けることができるのでしょうか?

乳がん患者である今渕恵子さんと精神腫瘍科の保坂隆医師の著書「がんでも長生き心のメソッド」では、「ベネフィット・ファインディング」をすすめています。

具体的な方法を引用します。

用意するものは1枚の紙とペンだけ。

まずは真ん中にタテの線を1本引きます

そして、線の左側に「がんになって悪かったこと・失ったもの」を書いていきます。例えば乳がん患者さんであれば、「仕事を続けられなくなった」とか「乳房を失った」とか「女性でなくなった気がしてしまう」とか、そういったことがよく挙がります。

ところが、そのうち必ずペンが止まるので、そしたら今度は線の右側に、「がんになって良かったこと・得たこと」を書き出していきます。「休息がとれるようになった」「家族の大切さが分かった」「本当に大切な友人が誰か分かった」といったことが多いですね。

落ち着いて思いを巡らせてみると、「がんになって良かったこと」がどんどん見つかってきて、最終的には「良かったこと」が「悪かったこと」の2倍ぐらい挙がったので、本当に驚いてしまいました

さらに、「悪かったこと」はすぐにネタ切れになるが、「良かったこと」は現在進行形で増え続けていくとのことです。

このベネフィット・ファインディングの良い点は、「(がんになって良かったことを)リストとして可視化してみると、より確かなものとして実感できるようになること」とのことです。

確かに、心の中でなんとなく思うだけでは実感が得られないかもしれませんね。

ちなみに保坂先生によると、このベネフィット・ファインディングはがんを告知されて3ヶ月以上たった患者さんを対象にすることが多いそうですが、これは人間はどんな逆境に遭遇しても、3ヶ月ほど経つと、その逆境に意味や価値を見いだせるようになるからだそうです。

がん患者の肯定的な変化の内容

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最後に、古村らによる「がん患者のbenefit findingに関する質的研究」(生老病死の行動科学, 16: p7-17, 2011)から、実際のがん患者さんにみられた肯定的な変化の内容を紹介します。

人生についての認識の変化

 1.人生なるようになると思える 

 2.平凡な一日が大切に思える 

 3.生きているからこそ、新しい出会いや発見があると思える 

 4.今までの人生で十分だと思える 

 5.自分は恵まれていると思える 

 6.自分の弱さを知った 

 7.森羅万象に思いを馳せる 

人生における考え方の変化

 8.プラス思考で前向きに進んでいる 

 9.くよくよせずに前向きに進んでいる 

 10.周囲に迷惑をかけたくないので前向きに進んでいる 

治療への取り組みの変化

 11.治療に前向きに取り組んでいる 

生きがい・楽しみの変化

 12.仕事または職場復帰が生きがいである 

 13.家族が生きがいである 

 14.趣味が生きがいである 

 15.生きがいを見つけたい 

 16.できる範囲の楽しみを見つけたい 

親密な関係性の向上

 17.家族の支えをありがたく思える 

 18.友人・周囲の支えをありがたく思える 

 19.家族との時間を持つようになった 

共感の高まり

 20.病気の人の気持ちがわかるようになった 

健康に関する意識・知識の変化

 21.健康に関する意識が変わった 

 22.健康に関する知識が増えた 

健康的な生活の変化

 23.食生活を変えた 

 24.喫煙をやめた 

 25.飲酒をやめた・飲酒量を減らした 

 26.運動するようになった 

この中には、あなたが思う「がんになって良かったこと(変化)」があるかもしれません。

ちなみにこのベネフィット・ファインディングですが、がんや病気に限らず、自分の経験した苦しいこと、つらいことすべてについて効果がありそうですね。紙とペンがあればできますので、試してみてはいかがでしょうか?

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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