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スタチン(高コレステロール血症薬)が膵臓がん患者の死亡率を低下:最新の報告より

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スタチンとは、高脂血症(高コレステロール血症)の治療薬で、現在では様々な種類が使われています。

このスタチンは、本来のコレステロールを低下させる作用とは別に、がんに対する作用について一躍注目を集めました。

これまでに多くの観察研究から、スタチンの服用が、がんの発症率を低下させ、またがん患者の死亡率を低下させることが報告されています。

また、最近では予後のきわめて悪い膵臓がんに対しても、スタチンによる生存率の向上が報告されてきました。しかし、これらの研究では患者背景が限定的であったり、スタチンの抗がん効果についてのメカニズムが明らかにされていないといった問題点がありました。

今回、2,000人以上の膵臓がん患者を対象とした大規模な研究により、あらためてスタチンが(おそらく脂質への影響とは関係なく)生存率を改善することが示されました。

スタチンとは?

スタチンは、HMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、肝臓での脂質の合成を抑制し、血液中のコレステロール値を低下させる薬剤です。

スタチンには、プラバスタチン(メバロチン)、シンバスタチン(リポバス)、フルバスタチン(ローコール)、アトルバスタチン(リピトール)、ピタバスタチン(リバロ)、ロスバスタチン(クレストール)といった様々な種類のものがあり、高コレステロール血症の治療薬として世界各国で使用されています。

近年の大規模臨床試験により、スタチンは高脂血症患者での心筋梗塞や脳血管障害の発症リスクを低下させる効果があることが明らかにされています。

日本でも多くの患者さんに処方されており、メバロチンなど、みなさんも聞いたことのある薬があるかもしれません。

スタチンの抗がん効果

スタチンには、コレステロールを低下させる効果以外にも、抗がん効果があることがわかってきました。

これまでの観察研究では、スタチンの服用は、乳がん、前立腺がん、大腸がん、卵巣がん、尿路がん、および膵臓がん患者の生存率の改善と関連していることが報告されています。

また分子レベルでは、スタチンは炎症を抑え、血管新生(がんの成長に必要な血管が増産されること)を阻害し、がん細胞に対してアポトーシス(細胞死の一種)を誘導したり、細胞増殖を抑制することが明らかとなっています。

実際にはこれらのメカニズムが総合的に作用し、スタチンの抗がん効果がもたらされていると考えられます。

膵臓がん患者におけるスタチンとコレステロール値および生存率との関係

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過去に、膵臓がんにおけるスタチンの生存率改善効果の報告はありましたが、症例数が少なかったり、患者集団が早期のステージに限定していたりと、結論を得るには不十分と考えられていました。

また、スタチンの生存率への影響が、コレステロール値を改善することによってもたらされているかについても不明でした。

そこで今回、膵臓がん患者を対象とした大規模な研究結果が、アメリカがん研究所の機関誌Journal of the National Cancer Institute (JNCI)に報告されました。

Influence of Statins and Cholesterol on Mortality Among Patients With Pancreatic CancerJ Natl Cancer Inst. 2016 Dec 31;109(5). pii: djw275. doi: 10.1093/jnci/djw275. Print 2017 May.

この研究では、2006年から2014年までに診断された2142人の膵臓がん患者(このうち約55%が転移あり)を対象とし、スタチンの服用とLDL(悪玉)コレステロール値、および生存率について調査しました。

スタチンの服用に関しては、あらゆる時点(がん診断前および診断後)での服用と、ベースライン時(がん診断前だけ)の服用に分けて解析しました。

結果を示します。

■ 膵臓がん患者2142人のうち、1155人(54%)がスタチンの服用歴があり、一方978人(46%)がスタチンの服用歴がありませんでした。
■ あらゆる時点(がん診断前および診断後)でのスタチンの服用は、13%の死亡リスクの減少を伴っていました。
ベースライン時(がん診断前だけ)のスタチン服用は、12%の死亡リスク減少を伴っていました。
■ スタチンの種類別解析では、シンバスタチン(死亡リスク13%減少)とアトルバスタチン(死亡リスク42%減少)の服用のみ、死亡リスクの減少がみられました
■ スタチンの投与期間の解析では、より長期間のスタチン投与を受けた人の方が、より生存期間が延長していました。
■ スタチン投与患者および非投与患者の両方において、LDLコレステロール値は生存率と関係ありませんでした。さらに、スタチンの生存率の改善効果には、コレステロールは関与していないことが示唆されました。

以上の結果より、スタチン(シンバスタチン、アトルバスタチン)の服用は、おそらくコレステロール(脂質)のコントロールとは独立したメカニズムによって、膵臓がんの死亡リスクを低下させるとの結論でした。

今回の検討では、進行したステージを含むすべての膵癌患者において、スタチンは予後を改善する効果があることを示した貴重な研究結果であると考えられます。

まとめ

今回の大規模な研究により、スタチン(シンバスタチンとアトルバスタチン)の服用が膵臓がん患者の死亡リスクを低下させることが示されました。また、この効果はコレステロール値の改善とは関係ないようです。

高コレステロール血症に対して、スタチンを服用している膵臓がん患者さんには朗報だと思います。しかし、がん予防や治療目的での安易なスタチンの投与に関しては、議論が分かれるところです。

スタチンには、まれではありますが横紋筋融解症、急性腎不全、肝機能障害(肝不全)、ミオパチーといった重篤な副作用があり、また糖尿病の発症リスクを上昇させるという報告もありますので、注意が必要です。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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