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精神的・心理的苦痛はがんの死亡率を上昇させる!セルフチェックのすすめ

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昔からよく「病(やまい)は気から」といいますが、実際に多くの研究によって、心血管病や脳卒中などの病気のリスクは、心理的な状態によって強く影響されることが証明されています。

がん(癌)おいても、一部の報告では、うつや不安などの心理的苦痛を抱えている患者さんでは再発しやすく、予後が悪いということが示されています。

しかしながら、これまで大規模な解析による明確な証拠(エビデンス)はありませんでした。

今回、海外からの論文で、精神的・心理的苦痛が様々ながんの死亡率を増加させるというショッキングなデータが報告されました。

心理的苦痛とがんによる死亡率との関係

イギリスの研究者らは、これまでに英国で行われた16の前向きコホート研究の参加者16万人以上の追跡調査から、心理的状態のスコアとがん死亡率との関係について調査しました。

Psychological distress in relation to site specific cancer mortality: pooling of unpublished data from 16 prospective cohort studies.  BMJ. 2017 Jan 25;356:j108. doi: 10.1136/bmj.j108.

対象は、1994年~2008年に開始された前向きコホート研究16件に参加した人のうち、16万3363人について、心理的状態を調べるアンケート調査(GHQ-12)の結果を調べました。

また、調査期間中の16種類のがん(食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、中皮腫、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がん、中枢神経系がん(脳腫瘍)、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、および白血病)による死亡との関係を解析しました。

平均9.5年間の観察期間において、がんによる死亡が4353人にみられました。

全部位のがん死亡率との関係

他の因子(年齢、性別、学歴、経済状態、体格(BMI)、喫煙、飲酒習慣)で補正した後、がん死亡リスクを比較した結果、心理的苦痛が強い人(GHQ-12スコアが7~12)では、心理的苦痛が弱い人(GHQ-12スコアが0~6)と比較して、がん(全部位)による死亡率がおよそ1.3倍も高くなっていました

喫煙との関係

がんのうち、肺がんなどの喫煙に関係するがんでは心理的苦痛と死亡率との間に有意な関係はみられず、一方で喫煙に関係しないとされるがんでは、心理的苦痛による死亡率の増加が高い(1.45倍)という結果でした。

がんの部位別死亡率との関係

がんの部位(種類)別の解析では、

  • 肝臓がん(4.24倍)
  • 白血病(3.86倍)
  • 非ホジキンリンパ腫(3.14倍)
  • 膵臓がん(2.76倍)
  • 膀胱がん(2.69倍)
  • 胃がん(2.67倍)
  • 食道がん(2.59倍)
  • 前立腺がん(2.42倍)

などにおいて、心理的苦痛によって死亡率の増加が顕著でした。

この結果より、心理的苦痛(不安やうつ)は、様々ながんの死亡率の増加の予測因子になることが明らかとなりました。

要するに、くよくよと心配しやすい人やうつ状態の人ではストレスが多く、また身体活動量も低下することより、免疫系の機能が低下し、がんの死亡率が高まる可能性が考えられます。

 

心理的苦痛ががん死亡リスクを増加させる理由

どうして心理的苦痛ががん死亡のリスクを増加させるのでしょうか?

実験によると、恐怖や不安などの精神的ストレスによって分泌される自律神経系ホルモンであるアドレナリンが、がん細胞の悪性度を高めることが示されています。

つまり、心理的苦痛によって分泌されるホルモンが、がんを進行される可能性があります

心理的状態を判定するテストGHQ-12

今回の研究で用いられているGHQ-12は、1978年に英国モズレー精神医学研究所 Goldberg 博士によって開発された質問紙法による検査法開発されたテストであり、精神医学的障害のスクリーニングに用いられています。

以下に日本語バージョンを紹介しますので、是非セルフチェックしてみてください。

過去4週間におけるあなたの心身の状態について最も適当と思われる番号を選んでください。

   質問  0点  0点  1点  1点

1 

 何かをするとき、いつもより集中して できた  いつもと変らなかった いつもよりできなかった  全くできなかった

2 

 心配事があり、よく眠れないことが 全くなかった あまりなかった  あった  度々あった 

 いつもより自分のしていることに生きがいを感じることが あった いつもと変らなかった  なかった 全くなかった

4 

 いつもより容易に物事を決めることが できた いつもと変らなかった できなかった 全くできなかった

5 

 いつもストレスを感じたことが 全くなかった あまりなかった  あった 度々あった 

6 

 問題を解決できなくて困ったことが 全くなかった あまりなかった  あった  度々あった

7 

 いつもより日常生活を楽しく送ることが できた  いつもと変らなかった できなかった 全くできなかった

8 

 いつもより問題があった時に積極的に解決しようとすることが できた  いつもと変らなかった できなかった 全くできなかった

9 

いつもより気が重くて憂鬱になることは  全くなかった あまりなかった あった 度々あった

10 

 自信を失ったことは 全くなかった あまりなかった あった 度々あった

11 

 自分は役に立たない人間だと考えたことは 全くなかった あまりなかった あった 度々あった

12 

 一般的にみて幸せといつもより感じたことは 度々あった あった  なかった  全くなかった 

合計点数を計算してください。

一般的には、0~3までは問題なく(3点は要注意)、4以上であれば何らかの病気である可能性が高いとされています。

スコアが4あるいは5点以上の人を「陽性」とした場合、気分・不安障害のスクリーニングにおいて、およそ感度70~80%、特異度60~90%と報告されています。

今回の研究結果では、スコアが7以上の人ではがんによる死亡率が高くなるという結果でした。

もし、あなたのスコアが4以上(特に7以上)の場合、心理的苦痛が強いと考えられます。適切な治療によって改善することもありますので、医師(主治医または精神科の専門医)に相談してみてはいかがでしょうか?

 

参考文献

本田 純久ら:GHQ-12項目質問紙を用いた精神医学的障害のスクリーニング.  厚生の指標 48巻10号 Page5-10


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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