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【医師が解説】抗がん剤治療(化学療法)にまつわる誤解

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がん患者さんに「抗がん剤治療」についてお話しをすると、いろいろと誤解があることがわかります。なかには詳しい話をする前に、「副作用がでる毒薬を体に入れたくない」と拒絶反応を示す患者さんもいらっしゃいます。

これはテレビなどで、抗がん剤治療を受けている患者さんが、入院中のベッドで吐いたり、髪が抜けたりするといった昔からのイメージが未だに残っているからかもしれません。

昔と違い、現在は抗がん剤治療の内容も方法もずいぶん変ってきました。少なくとも一部の患者さんが誤解しているような、ひどい毒薬治療ではないのです。

今回は、抗がん剤治療(がん化学療法)にまつわる誤解について解説します。

抗がん剤治療の効果について

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抗がん剤治療ではがんは治らない?

よく「抗がん剤治療は延命のためだけで、がんが治ることはない」という話をききます。これは誤解です。一般的に、白血病やリンパ腫には抗がん剤で完全に治るものがあり、固形癌(血液以外の臓器にできるがん)では抗がん剤が効きにくいとされています。しかし、固形癌でも、抗がん剤が効いて腫瘍が消失してしまうこともあるのです(これを完全寛解(CR)といいます)。

例えば、大腸がんの肝転移の患者さんが、抗がん剤治療によって肝転移が消失することがあります。その後、手術で肝臓の転移していた部位を切除したところ、がんが全滅していたということも経験されます。

がんの種類にもよりますが、抗がん剤でがんが治ることもあるのです。

腫瘍が小さくならないと意味がない?

抗がん剤の目的は、腫瘍を小さくするためだけではありません。

抗がん剤治療によって、がんに伴う痛みなどの症状が緩和することもあります。例えば、膵臓がんに対する抗がん剤治療では、がんによる痛みが軽減し、生活の質(QOL)が改善したという報告がいくつもあります。

抗がん剤治療は一旦始めたらやめられない?

抗がん剤治療にはスケジュールがあり、例えば2週間~1ヶ月間治療を続けることを1コース(クール)といいます。医師はこのスケジュールを患者さんに説明し、「まずは3コースがんばってみましょう」などといいます。ですので、多くの患者さんが、抗がん剤治療をはじめたら途中でやめることはできないと思っています。

これは誤解です。もし副作用がきつかったり、いろいろな事情によってやめたいと思ったら、(たとえ1日やっただけでも)いつでも抗がん剤治療はやめることができます。治療の決定権は患者さん自身にあります。正直に主治医に「やめたい」ということを伝えましょう。

抗がん剤治療の副作用

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抗がん剤治療を受けたら必ず副作用がでる?

すべての抗がん剤に、吐き気などの副作用があると考えている患者さんが多いのですが、これも誤解です。

個人差が大きく、また抗がん剤治療の種類にもよりますが、ほとんど副作用がない(あるいは症状として感じない)抗がん剤もあります

例えば、多くの抗がん剤には骨髄抑制という副作用がありますが、好中球が極端に減ったり、貧血が進行しない限り症状はでません。また、吐き気がでる恐れのある抗がん剤を使う場合には、あらかじめ「吐き気止め」を事前に投与することがほとんどですので、あまり吐き気を感じずにすみます。

私の外来では、術後にしばらく補助療法として内服薬の抗がん剤を飲んでもらっていますが、「飲んでも全く変化ありません」とおっしゃる患者さんがいらっしゃいます。

分子標的薬は副作用がない?

最近、多くの分子標的薬ががんの治療に導入されてきました。分子標的薬とは、「がん細胞が持っている特定の分子異常(タンパク質や遺伝子の異常)をターゲットとして、その部分だけに作用する薬」のことです。

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つまり、がん細胞だけを狙い撃ちする薬で、正常細胞には影響を及ぼさないということより、副作用がない(あるいは少ない)と考えられていました。しかし実際には、分子標的薬にも他の抗がん剤と同様に副作用があることがわかってきました。なかには間質性肺炎という致死的な副作用もみられるため、慎重に投与する必要があります。

抗がん剤治療中の生活

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抗がん剤治療中は安静にしていた方がいい?

抗がん剤治療中は家で安静にしているほうがよいと考えている患者さんがおられます。しかし、じっとしているばかりで体を動かさないと、体力が落ちるとともに筋肉痩せ(サルコペニア)の原因となり、治療継続の障害や予後の悪化につながります。

実際に乳がん患者を対象としたいくつかの研究では、抗がん剤治療中の運動は副作用を軽減し、生活の質を高めたという報告があります。

抗がん剤治療中でも運動(ウォーキングなど軽いもの)をおすすめします。

抗がん剤治療中は旅行に行けない?

これもよくある誤解で、抗がん剤治療中は外出や旅行は無理だと思っている患者さんが多くいらっしゃいます。そんなことはありません。ひどい副作用さえ無ければ、点滴のある日以外は、外出も旅行もOKです。実際に私は、がん患者さんやがんサバイバーの方には外出や旅行をすすめています。

医師ががん患者さん(がんサバイバー)に旅行をすすめる理由5つ

ただし、がん患者さんが旅行に行く際には以下のことにご注意ください。

  • ひとりでは行かない。 
  • ハードな旅程(日程)は組まない。
  • 薬を忘れない(お薬手帳と保険証も)。
  • かかりつけ医(主治医)の連絡先を準備しておく。
  • 念のため旅行先の救急病院を調べておく。
  • 調子が悪いときは早めに引き返す。
  • 抗がん剤治療中の患者さんは主治医に確認する(とくに白血球(好中球)減少などの副作用がある場合)。

以上です。

抗がん剤治療にまつわる様々な誤解について解説しました。少しでもお役に立てれば幸いです。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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