手術 膵臓がん

膵臓癌の手術(膵頭十二指腸切除)後の重大な合併症リスク解析:17,564人のデータより

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膵臓がんに対する手術の方法はがんの部位によって決まりますが、おもに右側の膵臓を切除する膵頭十二指腸切除術と、左側の膵臓を切除する膵体尾部切除術があります。

このうち膵頭十二指腸切除は、膵臓だけでなく、膵臓につながっている他の臓器(十二指腸、胆管、胆のう、胃の一部)を切除し、その後、膵液、胆汁、食べ物の流れるルートを作り直さないといけません。

このように膵頭十二指腸切除術は非常に複雑な手術のひとつで、術後の合併症が比較的多いことで知られています。また、重症の膵液瘻(すいえきろう)などの合併症がおこった場合には、ときに死亡につながる場合もあるのです。

したがって、重い合併症がおこる可能性が高い患者さんを術前に見つけ出し、予防策や慎重かつ迅速な術後対応をすることが重要になります。では、このような合併症を予測する方法はあるのでしょうか?

今回、膵頭十二指腸切除後の重大な合併症の危険因子が、日本のデータベース(National Clinical Database(NCD))の解析によって明らかとなりました。

膵頭十二指腸切除とは?

まず、膵頭十二指腸切除について説明します(下図)。

膵頭十二指腸切除術シェーマ

膵頭十二指腸切除は、膵頭部(膵臓の右側)にがんが存在する場合の標準術式です。

切除する範囲は、膵頭部、十二指腸、胆管、胆のう、胃の一部です。

切除後は、残った膵臓と空腸(小腸の一部)、胆管と空腸、そして胃と空腸をつなぎます。

このうち、膵臓と空腸をつないだ部分(膵空腸吻合)が最もつながりにくく、膵液がまわりにもれることがあります。この合併症を膵液瘻(すいえきろう)といいます。

この膵液瘻が重症化すると、お腹に膿(うみ)がたまる腹腔内膿瘍(ふくくうないのうよう)という状態を引き起こしたり、大きな血管から大出血したりして、命を脅かす状態に陥る可能性があります。

膵頭十二指腸切除後の重い合併症の危険因子:日本のデータベースからの解析結果

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この度、日本の多施設からの手術データを集めたデータベース(National Clinical Database(NCD))の解析によって、膵頭十二指腸切除術後の合併症の現状と、重い合併症と関連した危険因子について報告されました。

Risk factors of serious postoperative complications after pancreaticoduodenectomy and risk calculators for predicting postoperative complications: a nationwide study of 17,564 patients in Japan. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2017 May;24(5):243-251. doi: 10.1002/jhbp.438. Epub 2017 Apr 5.

この研究では、2011年~2012年に日本の1,311施設においておこなわれた膵頭十二指腸切除術17,564人の患者さんについてのデータを解析しました。

結果を示します。

■ すべての合併症の発生率は41.6%であり、術後30日以内の死亡率は1.31%、在院死亡率(入院したまま死亡した割合)は2.88%であった。

■ 生命を脅かす、あるいは死亡へつながる重い合併症の発生率4.5%であった。

■ 膵液瘻は全体で22%に発生していた。このうち、グレードCの膵液瘻(腹腔内出血や敗血症を併発するなど重篤な膵液瘻で、ICU 管理や再手術を要すもの)の発生率は4.8%であり、重い合併症と有意に相関していた

■ 重い合併症とグレードCの膵液瘻の発生に関連する危険因子は、性別(男性)高齢日常の活動性低下肥満(BMI>25)ASA(アメリカ麻酔科学会)スコア3以上喫煙呼吸障害などの持病膵臓がん以外の病気(胆管がん等)、血管合併切除、および術前の血液検査異常(血小板の減少、血清アルブミン血の減少、CRP値の上昇など)であった。

■ これらの結果を元に、重い合併症のリスクを予測するモデルを作成したところ、予測性能が高かった。

まとめ

日本の多施設データベース解析によると、膵頭十二指腸切除後に重い合併症(あるいは重症の膵液瘻)が起こりやすい患者さんの特徴は、男性高齢日常の活動性が低下している肥満喫煙している呼吸障害などの持病がある膵臓がん以外の病気、および術前の血液検査(血小板、アルブミン、CRPなど)に異常がある、などでした。

これらのデータを基に、今後、合併症の発生率を予測し、リスクの高い患者さんには予防策を講じたり、慎重に術後経過を見守るなど、何らかの対策を立てる必要があると考えられました。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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