がんの予防 抗癌剤・分子標的薬 肺がん

炎症を抑える分子標的薬(抗インターロイキン-1β抗体)カナキヌマブが肺癌を抑制

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慢性の炎症が、がんの発症や進展(増殖、浸潤、転移)に深く関与していることはよく知られています。

とくに肺がんは、アスベスト、喫煙、あるいは他の吸入毒によって引き起こされる持続性の炎症が原因であると考えられます。

これまでの研究では、炎症性サイトカインの1つであるインターロイキン-1βが、がんの浸潤や転移に重要な役割をはたしていることが示されています。

今回、このインターロイキン-1βを標的とするヒトモノクローナル抗体であるカナキヌマブ(Canakinumab、商品名イラリス)が、心血管疾患の再発リスクを低下させるだけでなく、肺がんの発症および死亡率を大幅に減少させるという研究結果が報告されました。

肺がんの予防および治療に大きな影響を与えると思われるデータであり、今後のさらなる研究が待たれます。

アテローム性動脈硬化症患者における肺がん罹患に対するカナキヌマブ(抗インターロイキン-1β抗体)の効果:無作為化プラセボ対照試験

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CANTOS試験は、アテローム性動脈硬化症患者を対象とし、カナキヌマブ(抗インターロイキン-1β抗体)が心血管イベントの再発を減らすかを調査する、無作為化プラセボ対照試験です。

心筋梗塞の既往があり、以前にがんと診断されたことがなく、また高感度C反応タンパク(CRP)が2 mg/L以上である10,060人が対象となりました。

これらの患者を無作為に4つのグループに分け、カナキヌマブを50 mg、150 mg、300 mgとプラセボを、3ヵ月毎に皮下投与しました。

主要有効性エンドポイントは、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または心血管死のいずれかの発生であり、結果としてはカナキヌマブはこれらの心血管イベントのリスクを有意に減らすことが確認されました(N Engl J Med. 2017 Sep 21;377(12):1119-1131)。

一方で、同じCANTOS試験において、がんの頻度(とくに肺がん)および死亡率についても調査が行われました

Effect of interleukin-1β inhibition with canakinumab on incident lung cancer in patients with atherosclerosis: exploratory results from a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017 Aug 25. pii: S0140-6736(17)32247-X. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32247-X. [Epub ahead of print]

結果を示します。

■ すべてのがんによる死亡率は、プラセボ群に比べ、カナキヌマブ300 mg投与群で有意に低かった(ハザード比、0.49、P=0.0009)。
■ 肺がん発症率は、プラセボ群に比べ、カナキヌマブ150 mg投与群でハザード比0.61(P=0.034)、300 mg投与群で0.33(P<0.0001)でそれぞれ有意に低かった(下図)

カナキヌマブと肺がん発症率

■ 他の部位のがん発症率に関しては、カナキヌマブ投与群とプラセボ群の間に有意な差はなかった。
■ 肺がんによる死亡率は、プラセボ群に比べ、カナキヌマブ300 mg投与群で有意に低かった(ハザード比、0.23、P=0.0002)。
■ 致死的な感染症あるいは敗血症は、プラセボ群に比べ、カナキヌマブ群で有意に多かった。

まとめ

以上の結果より、アテローム性動脈硬化症患者において、カナキヌマブは肺がんの発症を有意に抑制し、また死亡率も減少させることが示されました。

とくに、カナキヌマブ 300 mgのグループでは、肺がんの発症率を67%減少させ、また肺がんによる死亡率も77%減少させるという結果でした。

これまでに動物実験などでは、炎症にともなうインターロイキン-1βが癌の進展に関与していることは示されていましたが、このインターロイキン-1βを阻害する薬が実際の人においてがんを抑制したというデータはこれが初めてです。

炎症を抑える治療薬であるカナキヌマブは、心血管疾患だけでなく、肺がんの予防および治療に有効な可能性があります。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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