今回、あらたに、「がん患者さんのためのプレハビリテーション」というウェブサイトを開設しました。
このサイトでは、がんの手術を控えた患者さんが、どのように過ごすべきか、とくに、術前の準備「プレハビリテーション」の重要性と具体的な方法についてお伝えしたいと思います。
「がんの手術が決まった患者さん」、
「がんの手術前の抗がん剤(放射線)治療中の患者さん」、
そして、とくに「がんの手術あるいは治療が延期になった患者さん」
に知っていただきたい情報をまとめて紹介していきます。
新型コロナウイルス感染拡大によってがんの手術が延期
新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の医療を大きく変えてしまいました。
これは、いわゆる感染症患者を受け入れる特定の病院の医療崩壊や、一部の病院で発生した院内感染、クラスター(感染者集団)といった問題だけにとどまらず、医療全体のシステムにも大きな打撃を与えています。
なかでも重大な問題は、すべての外来受診・入院の中止や制限、患者さん自身による受診控え、および、それに伴う「診断・治療の遅れ」です。
がんなど一般の病気をかかえる患者さんの診療行為が大幅に制限され、病状が悪化することが懸念されています。
実際に、がんの治療を専門としている大きな病院で、患者さんや医療者の感染が確認され、入院・手術が中止・延期となったことは記憶に新しいところです。
インターネット患者会「ピアリング」による乳がんなどの患者さんを対象とした調査(4月19~25日)によると、新型コロナウイルス感染拡大を受け、手術の延期など治療に影響していると回答した人が約4分の1に上ったとのことです。
今現在も、不安な気持ちのまま、手術や抗がん剤治療などを待っておられる患者さんが増えていることが予想されます。
がんの手術を成功にみちびく準備「プレハビリテーション」とは?
がんの手術が決まった時、ほとんどの患者さんは不安を抱えたまま、ただ手術日まで待つだけの生活を送ります。
「あたまが真っ白で、なにもする気がおこらない」
「いまさらじたばたしたところで、どうにもならない」あるいは、
「手術は外科医がするのだから、お任せするしかない」といった心境だと思います。
もちろん、「手術がうまくいくかどうか」は、病院の医療レベルや外科医の技量にもかかっています。
しかし、長年がんの手術を担当してきた私どもの経験や多くの研究結果を調査してわかったことは、手術の成功はむしろ「患者さん自身の手術に向けての準備」にかかっているということです。
つまり、手術の前から運動、栄養サポート、精神的ケアなどの準備を始めることで、手術の合併症が減り、手術による死亡リスクが低下し、さらには、長期的な予後(生存率)も良くなることがわかってきました。
このような術前からの準備(リハビリテーション)のことを「プレハビリテーション(prehabilitation)」といいます。
なぜコロナ禍の今、「プレハビリテーション」が重要なのか?
コロナ禍の今、外出の自粛などにより、運動不足や精神的なストレスが問題となっています。
体力(とくに筋力や筋肉の量)が低下したり、うつ状態のまま手術に突入することは避けるべきなのです。
そこで、プレハビリテーションが必要になってきます。
プレハビリテーションは、とくにがんの手術を控えた患者さんにとって、とても重要であるにもかかわらず、未だに日本ではほとんど普及していません。
さらに、今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、病院でプログラムとして実施することがきわめて難しくなっています。
私の担当する外来では、がんの手術、とくに侵襲(からだへの負担)が大きな手術を受ける予定の患者さんには、できるだけ運動してもらうことや、栄養状態を改善するための食事の工夫などについてお伝えしています。
しかしながら、外来で直接お話できる患者さんには限りがあります。
そこで、患者さん自身に「プレハビリテーション」の重要性について知っていただき、実際に実践していただきたいのです。
この「がん患者さんのためのプレハビリテーション」をご覧いただき、ひとりでも多くのがん患者さんに、希望と勇気をもってプレハビリテーションを実践して頂きたいと思います。