すい臓がん(ステージ4)をあきらめない!抗がん剤3次治療による生存延長
膵臓がん患者の半数以上が、診断時には転移をみとめ、ステージ4と診断されます。
このような転移を認める膵臓がん患者さんには、全身化学療法(抗がん剤治療)が選択されることが多いのですが、効果は限られており、短期間しか病気の進行を抑えられないことが問題でした。
最近の新たな抗がん剤の開発および導入により、膵臓がん患者さんの治療の選択肢は広がりつつあります。
以前はステージ4の膵臓がんの患者さんに効果がある治療は少なかったのですが、最近では抗がん剤によって長期にわたる生存例もでてきました。
抗がん剤で生存期間が延長するための条件とは何でしょうか?
今回、膵臓がんステージ4に対して、抗がん剤の3次治療まで行い、治療に反応して比較的長期にわたってコントロールできている症例を紹介します。
転移性すい臓がんに対する抗がん剤3次治療にて長期生存が得られている症例
海外(ポルトガル)からの報告です。
症例(病歴)
症例は63歳女性
体重減少(3ヶ月間で12Kg)および背中の痛みを訴え、病院を受診されました。
CT検査で、膵臓の頭部に腫瘍を認めました。
同時に、肝臓にも2つ(最大径が10cmと2.5cm)の腫瘤、右の副腎に腫瘤、骨盤内に腫瘤、腹膜にも腫瘤があり、転移および腹膜播種が疑われました。
図:肝臓右葉への転移(10cm大)
肝臓の転移から生検を行って組織の顕微鏡検査を行ったところ、膵臓がんと診断されました。
CA19-9とCEAは正常範囲内でした。
体重は38Kgであり、日常の活動性を示すパフォーマンスステータス(PS)は1でした。
治療経過
まず1次治療として、ゲムシタビンとナブパクリタキセル(アブラキサン)の併用療法が行われました。
3ヶ月後、副腎転移と骨盤内の転移が大きくなり、CA19-9の上昇を認めました。
そこで、2次治療として、FOLFOX(フォルフォックス:オキサリプラチン、ロイコボリン、フルオロウラシル(5-FU)の併用)に変更しました。
3ヶ月後、腫瘍はさらに進行しつづけました。
3次治療として、FOLFIRI(フォルフィリ:イリノテカン、ロイコボリン、フルオロウラシルの併用)を開始しました。
2コース目からは、好中球減少のために20%の投与量の減少を行いました。
その後、進行は確認されなかったため、抗がん剤治療が継続されました。
現時点で、39コースのフォルフィリを完了し、痛みなどの症状はなく、パフォーマンスステータス(PS)は0で生活の質も保たれているとのことです。
担癌状態ではありますが、診断時から29ヶ月(2年5ヶ月)の時点で生存しているとのことです。
この症例では、やはり全身状態(パフォーマンスステータスがいいこと)と、抗がん剤治療に対する耐性(副作用がコントロールできて続けられること)が、長期生存が得られている最大の因子であると考察されています。
転移性膵臓がんに対する抗がん剤治療
転移性の膵臓がんに対しても、治療の選択肢が確実に増えています。
膵癌診療ガイドライン(2019年、改訂版)によると、1次治療として、FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)またはゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用を推奨しております。
さらに、2次治療として、1次治療がゲムシタビンベースの場合は、FOLFIRINOXまたはオニバイド、S-1(ティーエスワン)単独などを選択し、1次治療がフルオロウラシルベースの場合は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルまたはゲムシタビン単独を推奨しています。
また、新たに、MSI-Highの膵臓がんにペンブロリズマブ(キイトルーダ)、NTRK遺伝子変異陽性の膵臓がんにはエヌトレクチニブが2次治療として追加されました。
このように、転移性の膵臓がんに対する抗がん剤治療の選択肢も増えています。
ただし、2次治療、3次治療と続けられるためには、全身状態が良好なことが必須条件となります。
そのためには、副作用をしっかりと抑えること(主治医と相談して対応策を考えること)、食事からタンパク質を摂取すること、そして、筋トレを含めた運動を続けることが大切だと思います。
まとめ
全身に転移を認める膵臓がん(ステージ4)でも、3次治療まで抗がん剤治療を行い、長期生存している症例が報告されています。
このようなケースがあることを考えると、1次治療(あるいは2次治療)の効果が認められなかったとしても、すぐにあきらめる必要はありません。
抗がん剤が続けられる条件としては、全身状態を良好に保つことが重要であると考えられます。