抗がん剤治療中の運動によって腫瘍内の血管が増加:治療効果が高まる可能性
「運動をするがん患者のほうが長生きをする」ということは、多くの研究から明らかとなっています。
最近では抗がん剤治療中の運動が治療効果を高めるといった動物実験のデータも報告されています。
一方で、なぜ運動ががんの治療効果を高め、生存率を延長するのかについてのくわしいメカニズムはまだわかっていません。
今回、抗がん剤治療中の運動と腫瘍内の血管との関係についての研究結果が報告されました。
それによると、運動によって実際にがん患者さんの腫瘍内の血管の数などが増加し、(動物実験では)抗がん剤の効果が高まることが示されました。
つまり、抗がん剤治療中に運動をすることで、がんに薬が届きやすくなり、治療効果が高まる可能性があるということです。
くわしく解説します。
運動ががん治療をサポートするメカニズム
運動が、がん患者さんの治療によい影響を与え、生存期間を延長する理由には、以下のものが考えられています。
- 抗がん剤の副作用や疲労感を軽減する
- 筋肉やせ(サルコペニア)を予防
- 筋肉から分泌される物質(マイオカイン)が抗がん作用を持つ
- 運動によって血液中のナチュラルキラー細胞などの免疫細胞が活性化
- 運動によって、腫瘍内へのTリンパ球の浸潤数が増える
- カヘキシア(悪液質)を予防
また、いくつかの動物実験のデータによると、運動することで抗がん剤が腫瘍へ届きやすくなり、治療効果が高まることが示されています。
しかしながら、この詳細なメカニズムはわかっていません。
今回、海外から「運動と腫瘍内の血管との関係」に注目した研究が報告されました。
運動は腫瘍内の血管再構築をうながす
Exercise during preoperative therapy increases tumor vascularity in pancreatic tumor patients. Sci Rep. 2019 Sep 27;9(1):13966. doi: 10.1038/s41598-019-49582-3.
米国MDアンダーソンがんセンターの研究チームからの報告です。
実験1:マウスでの実験
まずは膵臓がんのマウス移植モデルを用い、ゲムシタビン(ジェムザール)投与だけのグループと、ゲムシタビン投与に運動(トレッドミルによる有酸素運動)をさせたグループを比較しました。
結果を示します。
■ ゲムシタビン投与+運動のグループは、ゲムシタビン投与だけのグループに比べて有意に腫瘍の成長が遅かった。
■ ゲムシタビン投与+運動のグループは、ゲムシタビン投与だけのグループに比べて有意に無再発生存期間が延長していた。
■ ゲムシタビン投与+運動のグループは、ゲムシタビン投与だけのグループに比べて腫瘍内の血管数、内腔が開いている血管数、100μm以上の大きな血管数などが有意に多かった。
実験2:膵臓がん患者での研究
70人の切除可能膵臓がん患者を対象として、術前の抗がん剤治療中に、週に最低120分の中程度の強さの運動(60分間の有酸素運動+60分間のレジスタンス運動)を指導しました。
このうち、33人(47%)が実際に切除手術を受け、うち23人の切除標本が解析可能でした。この23人の「術前運動群」は、術前に平均およそ15週にわたって運動を続けていました。
一方で、13人の術前に運動を指導していない膵臓がん患者の切除標本を「対照群」として比較しました。
結果を示します。
■ 術前運動群では、対照群と比較して、腫瘍内の血管数、微少血管密度、100μm以上の大きな血管数が有意に多かった(下図:上部写真の赤が血管)。
以上の結果より、抗がん剤治療中の運動は、腫瘍内の血管数や血管密度を増やして抗がん剤治療の効果を高める可能性があると結論づけています。
一方で、人における研究は、切除標本の解析にとどまっており、運動が予後(生存期間)に与える影響までは調査できていません。
今後、術前抗がん剤治療中の運動(プレハビリテーション)が予後を改善するかについて臨床試験で評価する必要があります。
まとめ
抗がん剤治療中の運動が腫瘍内の血管の変化をもたらし、抗がん剤治療の効果を高める可能性があるという結果でした。
「抗がん剤治療中でも運動をしたほうがいいか?」という質問に対しては、現時点ではしっかりとしたエビデンスはないが、やはり「したほうがよい」と考えられます。
今後の研究結果を待ちたいところですが、やはり「運動」はがん治療によい影響を与えるようです。