災害時のがん患者の注意点と治療を継続する重要性について
今回の台風19号のような大規模災害(天災)がおこった場合、がん患者さんがおかれる状況はときに重大な問題となります。
避難所での生活を余儀なくされることや、交通手段が絶たれて病院へ行けなくなる、あるいは普段通っている医療機関で治療を受けられなくなる可能性もあります。
抗がん剤や放射線治療を受けている場合、治療を中断しないといけないこともあるでしょう。
もちろん災害時には、病気のない人でも体調管理や病気の予防が必要となりますが、がん患者さんではとくに注意すべきことがあります。
今回は、大規模災害時のがん患者さんの注意点と、治療を継続する重要性についてまとめます。
災害に備えて普段からやっておくべきこと
地震、台風、大雨など災害はいつおこるかわかりません。
防災グッズをそろえたり、避難場所の確認など、あたりまえの災害対策をするとともに、がん患者さんは以下のことをやっておきましょう。
- 通っている病院(主治医)の名前・連絡先を保存
- 治療の内容(抗がん剤治療の内容など)をできるだけ詳しくメモしておく
- 処方薬の名前や量をメモしておく(おくすり手帳があればOK)
たとえば避難時に、これらの情報が必要となることがあります。
また、災害の有無にかかわらず、自分の治療内容を把握しておくことは重要です。
時間のあるときに、ご自分の治療や処方(薬)のくわしい内容を確認しておきましょう。
災害時にがん患者さんが注意すること
災害時にがん患者さんが注意すべきことをあげてみます。
避難所での注意点
1.内服薬があれば、おくすり手帳とともに必ず携帯する
くすりは(お薬手帳とともに)あるだけ持って行きましょう。
2.医療従事者がいれば、自分ががん患者であることを伝える
避難所に医療従事者(看護師、保健師など)がいれば、自分ががん患者であることを告げましょう。
3.マスク、手洗い、うがいをして感染を防ぐ
避難所では、(とくに抗がん剤で好中球が減っている患者さんでは)感染のリスクが高まる可能性があります。
マスク、手洗い、うがいをして感染を防ぐようにしましょう。
4.水分をしっかりとる(脱水症や血栓予防)
一般的にがん患者さんは、脱水症をおこしやすく、また血栓(深部静脈血栓症)ができやすい状態となっています。
水分をしっかりとって予防しましょう。
5.ストレッチや足を動かす(血栓予防)
狭い場所での生活は血栓症のリスクが高まります。こまめにストレッチをしたり、足を動かして血栓ができるのを防ぎましょう。
病院が被災した場合の注意点
1.近隣の「がんの治療ができる病院」へ紹介してもらう
治療を受けている病院が被災した場合、すみやかに近隣の病院へ紹介してもらう必要があります。
まずは通っていた病院(主治医)に連絡をとり、どう対処すべきか指示を仰ぎましょう。
連絡がとれない場合は、がん相談支援センター(全国のがん診療連携拠点病院などに設置されているがんに関する相談窓口)に連絡してもよいでしょう。
2.できるだけ継続して治療を受けれるようにする
抗がん剤治療や放射線治療中の患者さんは、できるだけ遅滞なく治療を継続できるようにしましょう。
このためには、落ち着いた時点でなるべく早くかかりつけ病院またはがん相談支援センターに問い合わせることが大切です。
自分からアクションをおこしましょう。
大規模災害に対する備え
がん情報センターのページに「大規模災害に対する備え」として下記のPDFがダウンロードできます。
がん患者さんにとても参考になります。
がん治療・在宅医療・緩和ケアを受けている患者さんとご家族へ-普段からできることと災害時の対応-試作(プロトタイプ)版 [2014年]
災害時でもがん治療を継続する重要性
実際に、災害でがん治療が中断あるいは遅れるとどうなるのでしょうか?
災害にあったがん患者さんの予後を調査した研究を紹介します。
Association Between Declared Hurricane Disasters and Survival of Patients With Lung Cancer Undergoing Radiation Treatment. JAMA. 2019 Jul 16;322(3):269-271. doi: 10.1001/jama.2019.7657.
アメリカからの報告で、ハリケーン災害と放射線治療中の肺がん患者の生存率との関係を調査した研究です。
局所進行性の非小細胞肺がんに対して放射線治療中の患者で、ハリケーン災害にあって治療を中断した人1734人と、ハリケーンにあわなかった対照群1734人の生存率を比較しました。
結果を示します。
■ ハリケーン災害にあった患者では放射線治療の期間が有意に長くなっていました(66.9日 vs 46.2日)。
■ ハリケーン災害にあった患者は、被害にあわなかった患者に比べ、死亡リスクがおよそ20%増加していました(調節ハザード比 1.19)。
■ 死亡リスクは災害の期間とともに増加しており、およそ1ヶ月間(27日間)続いた場合、27%の死亡リスク増加に達していました(下図)。
以上の結果より、ハリケーン災害によって放射線治療の中断・遅れを余儀なくされた肺がん患者では、予後が悪くなるということが示されました。
やはり、がん治療は遅滞なく継続することが大切であることがわかります。
まとめ
- がん患者さんは災害に備えて自分の治療情報をしっかりと把握しておきましょう
- 避難所では脱水症や血栓症を予防しましょう
- できるだけ治療(抗がん剤や放射線)が続けられるように、病院やがん相談支援センターに早めに相談しましょう