集学的治療で転移性すい臓がんの生存期間が延長:抗がん剤+ケトン食+温熱療法+高気圧酸素治療
新たな抗がん剤治療の導入にもかかわらず、転移を認めるステージ4膵臓がん患者の生存期間(中央値)は依然として1年未満であり、満足のいくものではありません。
抗がん剤治療だけでなく、積極的に他の治療法を加える集学的治療が必要と考えられています。
今回、海外から転移性膵臓がんに対する集学的治療(代謝的にサポートした化学療法+ケトン食+温熱療法+高気圧酸素療法)の治療成績が報告されました。
比較的少ない患者数での後ろ向き研究ではありますが、この標準治療+代替医療の組み合わせにより生存期間が延長する可能性が示されました。
転移性すい臓がんに対する標準治療と代替治療の集学的治療
Long-Term Survival Outcomes of Metabolically Supported Chemotherapy with Gemcitabine-Based or FOLFIRINOX Regimen Combined with Ketogenic Diet, Hyperthermia, and Hyperbaric Oxygen Therapy in Metastatic Pancreatic Cancer. Complement Med Res. 2019 Sep 17:1-9. doi: 10.1159/000502135. [Epub ahead of print]
トルコ(イスタンブール)の大学病院における臨床研究です。
対象
転移を認めるステージ4膵臓がん患者25名(年齢61歳(中央値)、男性17:女性8)
方法
以下の治療を組み合わせて治療を行いました。
- 代謝サポート下での抗がん剤治療(ゲムシタビン・ベースまたはFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法):12時間の絶食およびインスリン投与による軽度の低血糖状態下での抗がん剤投与
- 温熱療法:抗がん剤投与後24時間以内
- 高気圧酸素療法(HBOT):抗がん剤投与後24時間以内
- ケトン食(ケトジェニックダイエット):治療の全期間を通じて
全生存期間、無増悪生存期間、有害事象を後ろ向きに解析しました。
結果
■ 全生存期間(中央値)は15.8ヶ月でした。
注:例えば効果の高いFOLFIRINOX療法だけの場合、全生存期間(中央値)は11ヶ月と報告されていますので、15.8ヶ月の生存期間はとてもよい成績です。
また、打ち切り例もありますが、およそ2割の患者は4~5年以上の長期にわたって生存していることがうかがえます。
■ 無増悪生存期間(中央値)は12.9ヶ月でした。
■ 副作用としては、血液毒性(好中球減少)が主でした。
■ 年齢や性別で予後に差は認めませんでした。
結語
以上の結果より、少数例での後ろ向き解析という制限はありますが、代謝サポート下での抗がん剤治療に、ケトン食、温熱療法、高気圧酸素療法を加える集学的治療は転移性膵臓がん患者の予後を改善する可能性が示唆されました。
膵臓がんに対して代替医療は効果あるのか?
今回の研究では、抗がん剤治療に温熱療法や高気圧酸素療法、さらにケトン食といった代替医療を組み合わせています。
これらの代替医療は、単独では生存期間を延長するといったエビデンスは報告されていませんが、抗がん剤などの効果を高める作用が期待されています。
実際に、温熱療法(ハイパーサーミア)については、抗がん剤治療と組み合わせることで、予後を改善するという報告もあります。
がんに対する高気圧酸素療法についてはデータが少なく、日本ではごく限られた施設でしか実施できないようです。
ケトン食については、まだ安全性が確認されておらず、今後の研究報告が待たれるところです。
こちらについては、最近、古川健司先生がケトン食とビタミンDによるがん治療の効果についての本を出版しています。
まとめ
転移をみとめる膵臓がんに対して、代謝サポート(低血糖)下での抗がん剤+ケトン食+温熱療法+高気圧酸素療法による集学的治療を行った結果、予後を改善する可能性が示されました。
代替医療(非標準治療)も「エビデンスがないから」と否定するのではなく、標準治療にうまく組み合わせることで、ステージ4の膵臓がん患者さんの生存期間が延長する可能性があります。
もちろん日本においてこれだけの治療を全部受けることは難しいのですが、できることは試してみる価値はあります。