駆虫剤メベンダゾール・フェンベンダゾールはがんに効くのか?
2019年4月、「全身に転移した末期の小細胞性肺がんが、犬用の虫下し薬フェンベンダゾールによって完治した」人の衝撃の記事が英紙「サン」に載りました。
これは、アメリカ、オクラホマ州エドモンドに住むジョー・ティッペンズという人物であり、Youtubeにもニュースでインタビューを受ける動画があります。
この後、ベンゾイミダゾール系の駆虫薬であるメベンダゾールやフェンベンダゾールが人における「がん治療薬」として大きな話題となりました。
もちろんがん治療薬としては承認されていませんので、ネットや個人輸入で購入して服用する必要があります。
韓国でもブームとなっているようで、違法な輸入代行業者まではびこっているとのことです。
はたして、メベンダゾールやフェンベンダゾールは本当にがんに効くのでしょうか?人でのエビデンスはあるのでしょうか?
過去の研究結果を調査しました。
メベンダゾール・フェンベンダゾールの抗がん作用
これまでの多くの実験結果をまとめると、駆虫薬メベンダゾールおよびフェンベンダゾールには様々なメカニズムを介した強力な抗がん作用があるということです。
試験管(がん細胞)および動物実験でのデータをいくつか紹介します。
メベンダゾール
- 微小管の重合を阻害することでがん細胞を分裂期で停止させる
- がんの血管新生を阻害する
- アポトーシス(プログラムされた細胞死)によってがん細胞を死滅させる
- トリプルネガティブ乳がんに対する放射線感受性(治療効果)を高める
- 他の抗がん剤(シスプラチンなど)の治療効果を高める
- 抗腫瘍免疫の活性化をうながす
- 単独または他の抗がん剤と併用にて、動物モデルにおけるがんの成長を抑制
フェンベンダゾール
- 微小管の重合を阻害することでがん細胞を分裂期で停止させる
- がん細胞によるブドウ糖の取り込みを阻害して細胞死に誘導
- KRAS遺伝子変異が陽性の肺がん細胞に対して選択的に細胞毒性を示す
- ビタミンと併用した場合に動物モデルでのがんを抑制
- 単独または他の抗がん剤と併用にて、動物モデルにおけるがんの成長を抑制
一方で、人での効果を示した臨床試験の報告はこれまでにありません。
しかし、メベンダゾールの抗がん剤としての効果が認められ、海外(米国国立がん研究所)において進行・再発小児脳腫瘍に対してメベンダゾールの安全性を調査する第一相臨床試験が行われています。
本試験によって安全性が確認されて投与量が決まれば、第二相(さらに効果が確認されれば第三相試験)へとすすむものと思います。
メベンダゾールが著効した転移をみとめる大腸がんの一例
メベンダゾールによって寛解した難治性の転移性結腸がんの症例報告がありました。
Drug repositioning from bench to bedside: tumour remission by the antihelmintic drug mebendazole in refractory metastatic colon cancer. Acta Oncol. 2014 Mar;53(3):427-8. doi: 10.3109/0284186X.2013.844359. Epub 2013 Oct 28.
症例は、74 歳の男性
進行したS状結腸がんによる腸閉塞にて緊急の切除手術を行いましたが、同時に両側の肺と大動脈周囲リンパ節に多発転移が発見されました。
まずはカペシタビン+オキサリプラチン+ベバシズマブの標準治療を行いましたが、治療効果がなくなり、次にカペシタビン+イリノテカンによって治療しましたがこの治療も効果がなくなりました。
そこで、メベンダゾール 100mg 錠(1日2錠)を6週間服用しました。副作用は認めませんでした。
6週間経過後、肺とリンパ節の転移腫瘍は完全に消失し、肝臓の転移も著明に縮小しました。
その後、肝機能障害などが出現し、メベンダゾールを中止後に減量して投与を続け、現在は休薬期間中とのことです。
メベンダゾール・フェンベンダゾールはどうやって入手する?
さて、メベンダゾールやフェンベンダゾールはどうやったら入手できるのでしょうか?
メベンダゾールを入手するには?
メベンダゾール(Mebendazole)は、ベンゾイミダゾール系の駆虫薬であり、多くの寄生虫治療に用いる事のできる医薬品である。回虫症、蟯虫感染症、鉤虫感染症、メジナ虫症、エキノコックス症、ジアルジア症等がある。日本では鞭虫症治療薬として承認されている。
ウィキペディアより
メベンダゾールは人における鞭虫症治療薬として承認(保険収載)されています。
長期にわたっての使用例もあり、副作用が少ない安全な薬であるとされています。
ただし、もちろん鞭虫症と診断された患者さんに限って医師が処方した場合に使用ができますし、がんに対する治療効果の保証はありません。
フェンベンダゾールを入手するには?
フェンベンダゾールは犬用の駆虫剤(Panacur Cなど)として一般に販売されています。
税関などの問題がありますが、輸入代理店を通して、あるいは海外のサイト(Amazonなど)から直接購入することは可能なようです。
ただし、もちろん犬用ですので、人におけるがん治療効果や安全性については不明です。
ちなみに、実際に服用した人によるとこれまでに重大な副作用はでていないようです。
詳しくは、医師であり自らの尿管がんの闘病記をつづった大田浩右先生のサイトをご覧ください。
まとめ
駆虫剤メベンダゾール・フェンベンダゾールは、試験管・動物実験レベルではがん治療効果が示されています。
一方で、人における効果は症例報告にとどまっており、臨床試験などで証明されたエビデンスはありません。
またとくにフェンベンダゾールは人での安全性も保証されていないことより、現時点では積極的にすすめられる治療薬ではないと考えられます。
ただ、標準治療が効かなくなったがん患者さんにとって、希望の薬となることは確かです。
今後、臨床試験の結果がでることを期待したいと思います。
追記:フェンベンダゾールによる副作用(肝機能障害)の報告
2021年6月に、Case Reports in Oncologyという雑誌に、フェンベンダゾールの自己内服による副作用(肝機能障害)の症例が日本の愛知がんセンターから報告されました。
やはり、こういった副作用があることに注意したいですね。