【医師が解説】がん代替医療の生存率へあたえるインパクト:標準治療に比べ死亡リスクを2.5倍に増加
最近、手術、抗がん剤、放射線治療などの標準治療を拒否して代替医療(alternative medicine)を選択する有名人の報道をよく目にします。
例えば、アップル社の創始者で元CEOのスティーブ・ジョブズは、2003年に膵臓がん(神経内分泌腫瘍)が発見されたとき、手術を拒否して代替医療を選択したことはあまりにも有名です。
また最近では女優の南果歩さんが、「ピンクリボンフェスティバル2017東京シンポジウム」で講演し、通常の抗がん剤とホルモン療法をストップし、代替医療に切り替えたと打ち明けたことが報道されています。
今や代替医療を選択することは特別なことではなく、ごく普通のことになりつつあります。
しかし、がんに対して代替医療を選択した場合、生存率に与える影響などについての情報は限られています。
今回、アメリカの研究グループから4つの代表的ながん(乳がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん)に対する代替医療と標準治療の生存率を比較した研究論文が報告され、その結果に注目が集まっています。
がんに対する代替医療の選択と生存率への影響について
今回の研究では、まず国立がんデータベース(2004年から2013年)に登録されているがん患者のうち、標準治療(抗がん剤、放射線、手術、および/またはホルモン療法)を受けず、代替医療のみをうけた281人の転移を認めない4つのがん(乳がん、前立腺がん、肺がん、あるいは大腸がん)の患者281人を同定しました。
一方で、同時期に同じ種類のがんで標準治療を受けた患者は1,681,906人いました(下図)。
標準治療 人数(%) |
代替医療 人数(%) |
|
---|---|---|
全患者数 | 1,681,906 (99.98%) | 281 (0.02%) |
年齢(中央値) | 62 | 60 |
がんの種類 | ||
乳がん | 644,864 (38.4%) | 123 (43.8%) |
前立腺がん | 638,094 (37.9%) | 72 (25.6%) |
肺がん | 257,683(15.3%) | 52 (18.5%) |
大腸がん | 141,265 (8.4%) | 34 (12.1%) |
この2つのグループのうち、がんの種類、年齢、ステージ、併存疾患、保険の種類、人種、および診断された年に基づいてマッチングを行い、標準治療を受けた560人と代替医療だけを受けた280人(合計840人)について、予後(全生存率)を比較しました。
結果を示します。
がんの種類 |
標準治療 5年生存率 |
代替医療 5年生存率 |
ハザード比(死亡リスクの増加) |
全種類 | 78.3% | 54.7% | 2.50 |
乳がん | 86.6% | 58.1% | 5.68 |
前立腺がん | 91.5% | 86.2% | 1.68 |
肺がん | 41.3% | 19.9% | 2.17 |
大腸がん | 79.4% | 32.7% | 4.57 |
以上の結果より、がんに対して標準治療を行わず、代替医療のみを行うことは、死亡リスクの増加を伴うと結論づけています。
とくに乳がんでは代替医療を選択することで5倍以上も死亡リスクが高まるとのことでした。
標準治療か代替医療(非標準治療)か?
代替医療(alternative medicine)とは、「通常医療の代わりに用いられる医療」と定義されています。これは、「通常医療を補完する医療」である補完医療(complementary medicine)、あるいは通常医療と補完・代替医療の2つを統合した統合医療(integrated medicine)とは異なった概念とされています。
今回の結果からは、通常医療(標準治療)を全く受けずに代替医療にだけ頼った場合には、やはり死亡リスクが増加するという結果でした。
最近よくがんの「標準治療」と「非標準治療」という言葉を聞くようになりました。まず、標準治療と非標準治療とはどういう意味でしょうか?国立がん研究センターがん情報サービスによると、標準治療とは以下のように定義されています。
「科学的根拠(エビデンス)に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」
要するに、標準治療とは臨床試験など実際の患者さんで試した結果をもとに最も効果が高いと証明された治療法のことです。標準治療は健康保険の適応内の治療となります。
一方、非標準治療とは、標準治療以外のすべての治療法のことを指し示すと思われます。例えば、保険適応外の抗がん剤、先端医療として位置づけられている粒子線治療なども非標準治療に含まれると考えられます。
さらに健康食品やサプリメント、鍼・灸、マッサージ療法、運動療法、イメージ療法、心理療法なども含まれるかも知れません。これらの治療は、経験的に効果があることは分かっているが、臨床試験においてその有効性が証明されていない(あるいは、そもそも臨床試験などで比較することができない)治療法ということになります。非標準治療は、健康保険の適応外になります。
では、標準治療と非標準治療、どちらを選ぶべきでしょうか?単純に考えると、標準治療はお墨付きの「現時点では最良の治療法」ですので、確実に効果があると考えがちです。しかし、標準治療なら誰にでも効果が期待できるわけではありません。患者さんによっては合併症や副作用が問題となったり、著しく生活の質(QOL)が低下することもあります。
一方で、非標準治療は有効性がきちんと証明されていないものの、実際に効果があった症例が存在することは否定できません。また、体に対する負担(侵襲)が少ない治療法が多いこともあり、例えば高齢の患者さんには非標準治療の方が適している可能性もあるのです。つまり、一概にどちらがいい、悪いとは言えません。
私は、まずは医師がすすめる標準治療を第一に検討し(少なくとも試してみて)、治療効果が乏しい場合や副作用が強い場合、また、どうしても自分のライフスタイルや人生観にそぐわないと感じる場合には非標準治療を考慮するのがよいのではないかと思います。
いずれにしても、自分で責任を持って選んだ治療法を信じて受けることが大切だと思います。
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