ステージ4のがんが治療せずに自然に治る!肺がん(扁平上皮癌)の自然退縮例
肺がんは、日本におけるがん死亡者数の第1位(男女計)をしめる予後不良のがんです。
近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の導入によって進行した肺がん(非小細胞肺がん)の治療の選択肢は増えました。
しかしながら、ステージ4肺がんの5年生存率は5%以下です(全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2017年7月集計))。
がんが自然に縮小したり、消えてしまう、いわゆる「自然退縮(spontaneous regression)」の症例は、世界中から多数報告されており、その頻度はおよそ6~10万人のがん患者に1人といわれています。
なかでも皮膚がん(メラノーマ)やリンパ腫などに多く、一方で肺がんの自然退縮は比較的まれとされています。
今回、日本から高齢患者における肺がん(扁平上皮癌)の自然退縮例の報告がありましたので紹介します。
無治療による肺がん自然退縮例
【症例】
症例は、82 歳男性
狭心症、閉塞性動脈硬化症、高血圧症、糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの既往あり。
喫煙歴は1日20 本を50年間(20~70歳まで)
【現病歴】
咳と動いたときの呼吸困難をみとめ、入院となりました。
肺炎(左肺下葉)と診断され、抗菌薬の投与をおこなっていましたが、治療中に撮影したCT検査にて右肺上葉に肺炎とは別の影(しこり)を指摘されました。
気管支鏡検査を施行し、生検(顕微鏡による組織の検査)で非小細胞肺がんの一種、扁平上皮(へんぺいじょうひ)癌と診断されました。
腫瘍マーカーは 、SCCが4.9 ng/mlと著明に上昇していました。またCEAは6.1 ng/mlと軽度上昇していました。
PET検査では、右肺上葉の腫瘤(原発と考えられるがんの部位)に強い集積を認め、他にも右鎖骨上窩、気管前、気管分岐下、両側肺門リンパ節および左副腎にも同様に集積を認め、転移が疑われました。
以上より、肺がん(扁平上皮癌)のステージ4と診断されました。
【治療経過】
抗がん剤治療を検討しましたが、高齢であることや、経過中にゆっくりと進行する汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう:白血球、赤血球、血小板がすべて減少する病態)を来したことから骨髄の病気(骨髄異形成症候群)が疑われました。
このため、抗がん剤治療は困難と判断し、治療を行わずに外来で経過観察の方針としました。
しかしながら、診断から3ヶ月後のCTで右肺上葉のがんの縮小を認めました。
また、その1年後の検査でもがんは縮小していおり、PET検査ではリンパ節や副腎の集積も著明に低下しており、全身性に癌が自然退縮したと考えられました(下図)。
腫瘍マーカーも、SCCは1.9 ng/mlで上昇傾向なく、CEAも3.5 ng/mlまで低下していました。
【考察】
今回、高齢の患者さんに発症したステージ4の肺がんが、無治療にもかかわらず1年以上にわたって自然退縮を認めたという症例でした。
一般的にがんが自然治癒するメカニズムとしは、免疫のはたらきが最も関与している可能性が高いと考えられます。
たとえば、過去の報告例では自然退縮したがんにはリンパ球が多く集まっているといった所見があり、活性化された免疫監視システムががんの縮小・消失に関係している可能性が指摘されています。
しかし、本症例では白血球も減少する骨髄異形成症候群の合併が疑われており、がんを撃退するTリンパ球やNK細胞の機能はむしろ低下していると考えるのが自然です。
また、感染症によってがんが縮小するといった報告もあり、肺炎ががんの自然退縮に関与した可能性もあるとしています。
いずれにせよ、はっきりとした原因は不明ですが、なんらかのメカニズムによって無治療の肺がんが自然退縮した貴重な症例だと考えられます。
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