膵臓がん患者の約5%に生まれつきの遺伝子変異(生殖細胞変異)を確認

Research

膵臓がんの原因として、複数のがん関連遺伝子に変異が蓄積することが指摘されています。

たとえば、がん遺伝子(アクセル)であるKRAS(ケーラス)遺伝子の変異は膵臓がんで最も多い遺伝子異常であり、初期の前がん病変からみられ、最終的にはおよそ90~95%に確認されます。

ところが、このようながん遺伝子の変異は後天的であり、生まれつきのもの(いわゆる生殖細胞変異)ではありません。

一方、がん抑制遺伝子に生まれつき変異がある人がいます。

たとえば、TP53 (p53)遺伝子に生まれつき変異を認めるリ・フラウメニ(LiFraumeni)症候群の人は、小児期および成人期に様々な臓器で悪性腫瘍を多発するリスクが高いことが知られています。

今回、大規模な研究から、膵臓がん患者のおよそ5%に、がん抑制遺伝子の生まれつきの変異(生殖細胞変異)があることが判明しました

がん関連遺伝子の生殖細胞変異と膵臓がんリスクとの関係

Association Between Inherited Germline Mutations in Cancer Predisposition Genes and Risk of Pancreatic Cancer. JAMA. 2018 Jun 19;319(23):2401-2409. doi: 10.1001/jama.2018.6228.

【対象と方法】

対象は、3030人の膵臓がんと診断された人で、コントロールとして12万人および5万人以上の異なる遺伝子解析データベースを用いて比較しました。

膵臓がん患者のうち、343人(11.3%)膵臓がんの家族歴(第一度近親者または第二度近親者に膵臓がんの人がいる)がありました。

患者からDNAを抽出し、21のがん素因遺伝子の生殖細胞変異を調べました。

この結果と、コントロール(ごく少数の膵臓がん患者を含む可能性あり)の全エクソンシークエンスのデータを比較しました。

【結果】

 

■ コントロールと比べ、膵臓がん患者では、6つのがん素因遺伝子の生殖細胞変異が有意に多く認められた(2.6倍から12倍、下の表)

 

遺伝子名 オッズ比(OR)
CDKN2A/p16 12.33
TP53 (p53) 6.70
MLH1 6.66
BRCA2 6.20
ATM 5.71
BRCA1 2.58

例えば、コントロールに比べ、膵臓がん患者では、CDKN2A(老化に関係するがん抑制遺伝子)の生殖細胞変異が12倍以上も多かったということです。

 

■ これら6つのがん素因遺伝子のいずれかの変異は、全てのがん患者の5.5%(膵臓がんの家族歴がある患者の7.9%、ない患者の5.2%)に認められた。

【結語】

膵臓がんの家族歴の有無にかかわらず、膵臓がん患者のおよそ5%に、6つのがん素因遺伝子の生まれつきの変異(生殖細胞変異)が確認された。

 

つまり、生まれながらにこの6つの遺伝子のいずれかに変異があると、膵臓がんになりやすくなるということです。

以前は、このような生まれながらの遺伝子変異は、おもに遺伝性のがん(膵臓がんであれば、家族性膵がん)に認められることが報告されていました。

しかし、今回の結果では、家族性ではない膵臓がん(いわゆる散発性膵がん)にも、およそ5%に同様の遺伝子変異があることがわかりました。

 

今後、より大規模な集団での確証が必要ですが、将来的には、このような遺伝子検査によって、膵臓がんになるリスクが高い人がわかるようになる可能性があるとしています。

 

まとめ

3000人以上の膵臓がん患者のDNA解析結果より、膵臓がん全体のおよそ5%に6つのがん素因遺伝子のいずれかに生まれつきの変異(生殖細胞変異)があることが判明しました

これらの人については、膵臓がんの原因として環境よりも遺伝性の要因が強いと考えらます。

 


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