標準治療、非標準治療の枠組みを超えた「いいとこどり」のがん治療
がんと診断され、主治医から治療法の説明を受けた患者さんは、短時間のあいだに「とても難しい選択」を強いられることになります。
主治医から「どれがいいですか?」と聞かれても、即答できる人はほとんどいないでしょう。
ガイドラインですすめられている「標準治療」にすべきか、
エビデンスはないものの、期待されている「先端医療」にすべきか、
あるいは、体にやさしいといわれる「非標準治療」にすべきか。
実際には、もっと多くの選択肢があるかもしれません。
想像もつかない治療法のなかから「どれが一番いいか」を選ぶことは、至難の業です。
迷って当然です。命や生活が左右されるのですから、よく考える必要があります。
しかし、どれかに決めないと治療が始まらないため、いつまでも悩んでいるわけにはいかないでしょう。
今回は、「がんの治療法はどうやって決めるべきか」という難しい問題について、私の考えをつづってみました。
がん治療に何を求めるか?
がんの治療法を決めるうえでは、多くの情報を集めることが大切です。
まずは、自分のがんの現状をしっかりと把握したうえで、考えられる治療法をできるだけたくさん列挙します。標準治療も非標準治療も全部書き出してみましょう。
「治療をしない」という選択肢もあっていいと思います。
ノートか何かにまとめるといいですね。
そして、それぞれの治療法について、わかる範囲で以下のことを書き込みます。
・期待される効果(有効性)
・治療期間
・副作用・後遺症
・かかるお金(保険の適応かどうか)
・どこで受けることができるか
すべてを書き込んだら、あらためて全体をながめてみましょう。書くことで頭の中が整理され、自分自身が「がん治療に何を求めるか?」が明確になってきます。
どんな治療法にも、期待される効果と望まない副作用・後遺症があります。
ガイドラインで一番すすめられる標準治療であっても、あなたには効かないかもしれませんし、副作用が強くでる可能性もあります。
また治療法によっては、健康保険の適用外で経済的負担が大きいものもあります。
このような治療のメリットとデメリットのバランスを考え、「自分がどうのように生きたいか」にもっとも合った治療法を選ぶのがよいでしょう。
当然ながら、治療効果を重視するのか、あるいは生活の質を重視するのかは、患者さん個人の価値観や社会背景によって違ってきます。
あなたが「がん治療に何を求めるのか?」を考えることで、おのずと治療法は決まってきます。
がん根治を目指す場合、まずはエビデンスがある標準治療を優先
根治が望める場合
いろいろな意見があるとは思いますが、がんの根治を目指す場合、まずはエビデンスがある標準治療(多くの場合は外科的切除)を優先すべきだと思います。
ただし、手術や副作用が強い抗がん剤は体への負担が大きいため、患者さんの活動性や体力によっては注意が必要です。
高齢者(80歳以上)、活動性が低下した人(寝たきりの人や日常生活で介助が必要な人)、あるいは、治療中の重い持病(とくに心臓や肺の慢性疾患)がある患者さんでは、治療効果よりも合併症や副作用のリスクの方が大きくなります。
このような患者さんでは、治療のメリットとデメリットについて主治医とよく相談することが必要です。
根治が難しい、あるいは望めない場合
根治が難しい、あるいは望めない場合には、標準治療にこだわる必要はないと思います。
先端医療(臨床試験など)や非標準治療(免疫治療、セルフケア)なども含め、最も自分の価値観にあった治療法を選択すべきです。
どうしても決めるのが難しい場合には、「直感」に頼ってもよいと思います。
ひとつの治療法にパーフェクトを求めない
がんの治療を選択するうえで重要なことは、ひとつの治療法にパーフェクトを望まないことです。
なぜならば、患者さん全員(100%)に効くがんの治療法は当然ながら存在しないからです。
これは、現時点での最良の治療とされる標準治療にも当てはまります。
たとえば、奏功率(有効率)が80%という効果が高い標準治療であったとしても、20%の患者さんには効かないのです。
たとえガイドラインですすめられている抗がん剤でも、全く治療しない場合と比べてわずか数ヶ月間(あるいは数日間)しか延命効果がないことがありますし、逆に副作用で死亡するリスクもあるのです。
このようにエビデンスがあるから絶対に患者さんにとってメリットになるとは限らないのです。
非標準治療でも同じです。
「この食事だけでがんが消えた!」といったセンセーショナルな本が売れていますが、「食事療法だけでがんを治す」という考え方もやはりナンセンスです。
くりかえしますが、標準治療でも、非標準治療でも、ひとつの治療法にパーフェクトを求めないことが重要です。
標準治療、非標準治療の枠組みを超えた「いいとこどり」のがん治療
一方で、代替治療(食事療法、ハーブ(サプリメント)、運動療法、瞑想など)をエビデンスがないからと切り捨てるのもナンセンスだと思います。
エビデンスがないから全く効かないとか、役に立たないわけではないからです。
たとえば、臨床試験で比較することが難しい食事療法でも、体力、筋力および免疫力を維持することで抗がん剤などの副作用を軽減したり、治療の継続につながったりすることがあります。
つまり、代替医療を通常のがん治療に加えることで、結果的に治療効果が高まる可能性があるのです。
そこで、標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療)や非標準治療(代替治療)という枠組みにこだわらず、自分に合ったものを何でも取り入れる「いいとこどり」のがん治療をおすすめします。
例えば、病院での標準治療(手術や抗がん剤治療)に加え、自宅で食事療法、運動療法、瞑想、ヨガなどを取り入れるといった具合です。
大切なのは、病院での治療だけに頼らず、積極的に自分でできること(セルフケア)を追加することです。
セルフケアを取り入れる1つのメリットは、「自分自身でがんを克服するぞ」という前向きな気持ちが生まれることです。
またいろいろな治療法を組み合わせることで、相乗効果があらわれることもあるのです。
受けてみたい治療法や取り入れたいセルフケアは主治医と相談し、勇気をもって試してみてください。
リスクや副作用ばかりを気にしていたら、せっかくのチャンスを逃す可能性があります。
まとめ
がん治療のメリット、デメリットのバランスを考え、自分にもっとも合った治療法を選びましょう。
標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療)や非標準治療(代替治療)にこだわらず、自分に合ったものを積極的に取り入れる「いいとこどり」のがん治療をおすすめします。