膵臓がんに対する「がんゲノム医療(個別化治療)」で生存率が改善
がんゲノムプロファイリング検査によって遺伝子異常を見つけ、それに対応する特定の治療薬を使って治療する「がんゲノム医療(がん個別化治療、プレシジョンメディシン)」の研究がすすみ、実際の臨床に導入されつつあります。
予後不良といわれる膵臓がんに対しても、すでにがんゲノム医療がはじまっています。
さらに、これまでは「がんゲノム医療」は、標準治療が終了した後でしか使えないといった「しばり」がありましたが、将来的には治療の最初から使えるようになる可能性があります。
実際に、国立研究開発法人国立がん研究センターは、膵臓がんをふくむ固形がん患者(計200例)を対象とし、初回治療としての「がんゲノム医療」を先進医療の枠組みで開始することを発表しました。
はたして「がんゲノム医療」によって膵臓がんの生存率は改善するのでしょうか?
今回、アメリカから、膵臓がんに対するがんゲノム医療の治療成績(生存期間)に関する研究報告がありました。
がんゲノム医療を受けた膵臓がん患者の生存率は?
Overall survival in patients with pancreatic cancer receiving matched therapies following molecular profiling: a retrospective analysis of the Know Your Tumor registry trial. Lancet Oncol. 2020 Apr;21(4):508-518. doi: 10.1016/S1470-2045(20)30074-7. Epub 2020 Mar 2.
膵臓がん患者を対象としたアメリカの研究チームからの研究です。
2014年から2019年まで「あなたの腫瘍を知ろう(Know Your Tumor: KYT)」プログラムに紹介された膵臓がん患者1856人のうち、1082人(58%)ががん組織採取のための生検を受け、遺伝子プロファイリング検査の結果を受け取りました。
このうち、治療薬が存在する遺伝子異常が発見された患者の一部に、対応した特定の治療薬が投与されました。
それ以外の患者は、通常の標準治療を受けました。
これらの患者について、以下の3つのグループに分けて全生存期間(OS)を後ろ向きに解析しました。
- 治療薬が存在する遺伝子異常があり、対応した特定の治療を受けたグループ(がんゲノム医療療群)
- 治療薬が存在する遺伝子異常があったものの、対応していない治療を受けたグループ(非対応薬治療群)
- 治療薬が存在する遺伝子変異がなかったグループ(標的可能遺伝子変異なし群)
例えば、がんゲノム医療群は、BRCA遺伝子変異がある患者に対するオラパリブ、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)陽性の患者に対するペンブロリズマブ(キイトルーダ)またはニボルマブ(オプジーボ)、BRAF遺伝子陽性がある患者に対するダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法などを受けた患者です。
非対応薬治療群は、対応する治療薬が存在する遺伝子変異があったにもかかわらず、通常の標準治療(FOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法)などを受けた患者です。
標的可能遺伝子変異なし群は、対応する治療薬が存在する遺伝子変異がなく、通常の標準治療を受けた患者です。
結果を示します。
■ 遺伝子プロファイリング検査を受けた1082人中、282人(26%)に治療薬が存在する遺伝子異常が見つかりました。
■ 解析対象とした677例のうち、189例(28%)に治療薬が存在する遺伝子変異がありました。観察期間の中央値は383日でした。
■ がんゲノム医療群(46例)は、非対応薬治療群(143例)よりも全生存期間が有意に延長していた(2.58年 vs. 1.51年、ハザード比 0.42、95% CI 0.26-0.68、P=0.0004)。
■ がんゲノム医療群(46例)は、標的可能遺伝子変異なし群(488例)よりも全生存期間が有意に延長していた(2.58年 vs. 1.32年、ハザード比 0.34、95% CI 0.22-0.53、P<0.0001)。
以上の結果より、膵臓がんに対する遺伝子プロファイリング解析にもとづく個別化医療(精密医療)は、予後改善に大きな役割を果たす可能性があると結論づけています。
今後、前向きの臨床試験でさらなる検証が必要であると述べています。
まとめ
膵臓がんに対する「遺伝子異常に基づいた個別化治療」の治療成績がはじめて報告され、非常に有望であるという結果でした。
後ろ向き解析ではありますが、膵臓がん患者の4人に1人程度は遺伝子プロファイリングによって治療薬が存在する遺伝子異常がみつかること、そして、がんゲノム医療によって、通常の標準治療よりも生存期間(中央値)をおよそ2倍に延長できる可能性が示されました。
今後、日本でもますます「がんゲノム医療」が導入され、膵臓がん患者の予後が改善することが期待されます。