期待されるがんの最新治療「光免疫療法」とは?

先日、「光免疫療法」が世界に先駆け、日本で実用化されるというニュースが流れました。

2020年9月25日、楽天メディカルジャパンが開発した医薬品「アキャルックス」が、「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」を効能・効果として、厚労省から製造販売承認を取得しました。

これによって、今後「アキャルックス」を使用した光免疫療法が日本において実施されることになります。

この「光免疫療法」は、手術、抗がん剤、放射線、免疫チェックポイント阻害剤に続く「第五のがん治療」と言われることもあり、全く新しいがん治療法として注目されています。

しかし、その効果はどの程度のものなのでしょうか?

今回は、この光免疫療法のメカニズム(作用機序)、メリット、デメリット、対象となるがんの種類および臨床試験での有効性について解説します。

光免疫療法とは?

光免疫療法(近赤外線免疫療法)とは、米国立がん研究所(NCI)の主任研究員、小林久隆氏が開発したもので、がん細胞に集まる薬の投与と、近赤外線(赤色可視光)と呼ばれる光の照射を組み合わせた治療法です。

そのメカニズム(作用機序)ですが、薬を点滴することで、まずがん細胞だけに「特殊な光(近赤外線:赤色可視光)に反応する物質」を集めておきます。

具体的には、この治療で使われる「ASP-1929(アキャルックス)」と呼ばれる薬は、がんの表面にあるたんぱく質EGFR(上皮成長因子受容体)に結合する抗体薬(セツキシマブ)と、赤色可視光に反応する光感受性物質(IR700)の複合体です。

次に、ペンライトのような機器や光ファイバーなどを用いて、病巣に赤色可視光を照射し、がん細胞のみを死滅させます。

さらに、この治療によって、がん細胞が破裂されるときに、その内容物が細胞の外にもれだすことが考えられますが、その結果、樹状細胞の成熟化などを引き起こし、がんに対する免疫が活性化されると考えられています。

このように、がん細胞だけをピンポイントに破壊するだけでなく、がんに対する免疫能を高めるという治療法です。

米国NCIによる説明の動画(英語)も貼っておきます。

光免疫療法のメリットとデメリット

光免疫療法のメリットは、

  • 光の照射は正常細胞には無害で安全性が高いことより、副作用が少ないと考えられていることです。
  • また、放射線治療と違い、効果がある限り何度でも繰り返し行えることです。

一方で、光免疫療法のデメリットは、

  • 原則として、抗体薬が集まるがんでないと使えないこと(たとえば、頭頸部がんでも、EGFRを発現している扁平上皮がんには使えますが、ほとんど発現がない腺がんは対象にならないということです)
  • 現時点では、からだの表面に近いがんが適応で、からだの奥深くの臓器のがんに対しては難しいこと
  • 血管にがんが浸潤している場合には、がんと一緒に血管が剥がれ落ちると大出血につながる恐れがあるため、使えないということです。

以上のようなメリット、デメリットがあります。

光免疫療法の治療効果

さて気になる光免疫療法の有効性ですが、人での治療効果については、大規模な臨床試験でのデータがないのが現状です。

治療歴のある局所再発頭頸部がんを対象にしたアメリカでの第Ⅱa相臨床試験では、全体の奏効率が約45%、完全奏効(CR)率が約14%、全生存期間(OS)の中央値が9.1カ月という結果でした。

日本では、2018年4月から国立がん研究センター東病院で、頭頸部がんに対しての治験が開始されています。この第1相試験では頭頸部がんの患者3名に実施した結果、2例で部分奏効が認められたということです。

2019年12月17日に、楽天アスピリアンが、光免疫療法の頭頸部扁平上皮がんを対象とした国際第3相試験(LUZERA-301試験)を開始したと発表しました。

2種類の標準療法を受けた進行/再発頭頸部扁平上皮がん患者275名が「光免疫療法」と「医師が選択した治療方法」にて比較検討する非盲検無作為化比較試験となるようです。

いずれにしても、まだ有効性が確立されているとは言い難い状況です。

治療対象(適応)となるがんの種類

治療の対象となるがんの種類についてですが、現時点では、頭頸部がん(鼻、口、喉、耳、顎など)に限られています

2019年より、切除不能な進行・再発胃がんや食道がんに対する臨床試験がはじまっています。この結果次第では、胃がんや食道がんにも適応が広がる可能性があります。

将来的には、肺がん、大腸がん、乳がん、すい臓がん、前立腺がんに応用することが検討されているとのことです。

また、動物を用いた前臨床実験では、胃がんや卵巣がんの腹膜播種に対する内視鏡や光拡散ファイバーを用いた実験でも良好な結果が報告されています。

ただし、EGFRの発現がないがんの場合、あらたな標的となる抗体を用いた薬を作成する必要があります。

また、体の奥深くに位置する臓器の場合、どうやって光をあてるかが問題になってきます。

まとめ

光免疫療法は、理論的にはとても素晴らしいがん治療法ですが、まだその実力(有効性)については不明です。

今後の臨床試験(治験)の結果を待ちたいと思います。

YouTubeでも解説動画をアップしています(期待されるがんの最新治療「光免疫療法」について医師が解説)。

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