すい臓がん患者の運動(有酸素運動、筋トレ)の実態:アメリカでの調査
がん患者さんが、定期的に運動することによって、生活の質が高まり、再発率が減り、そして、生存期間が延長することは、多くの研究から明らかとなっています。
ただし、これらの研究の多くは、乳がん、前立腺がん、および大腸がんといった、罹患者数が多いがんを中心に行われてきました。
一方で、すい臓がん(膵癌)患者については、平均的に生存期間が短いという理由もあり、診断後の運動の効果についての研究は少ないのが現状です。
また実際の臨床でも、すい臓がん患者さんに運動をすすめることも、あまりありませんでした。
ところが、最近では、すい臓がんの治療成績が向上し、とくに切除可能のすい臓がんの場合、5年以上にわたって生存する患者さんも増えてきました。
そこで、すい臓がん患者さんにも、あらためて診断後に運動する必要性を伝える必要があると考えられます。
では、すい臓がん患者さんの運動の実態はどうなのでしょうか?どのくらいの患者さんが、しっかりと運動できているのでしょうか?
最近報告されたアメリカからの調査結果を紹介します。
すい臓がん患者の運動の実態:がん切除後の運動を左右する因子とは?
アメリカのテキサス州MDアンダーソンがんセンターからの報告です。
すい臓がん(または、膵神経内分泌腫瘍)に対して2000年から2017年にかけて膵切除術を受けた患者1316人のうち、2018年6月時点で生存している患者を対象としました。
最終的には、262人が調査に答えてくれました。
実際にどのくらい運動しているかについてのデータを、2019年にACSM(American College of Sports Medicine;アメリカスポーツ医学会)から発表された「がんサバイバーのための運動ガイドライン」の基準と照らし合わせました。
また、運動の実施率と生活の質や疲労感(倦怠感)との関係も調査しました。
その結果、262人中、わずかに62人(24%)しか、ガイドラインの有酸素運動およびレジスタンス運動(筋トレ)の基準を満たす運動をしていませんでした。
一方103人(39%)では、有酸素運動も筋トレもどちらも基準に達していませんでした。
さらに、運動の量(基準を満たす率)を左右する因子について解析したところ、より高い自立的なモチベーション(動機)を持っていることが、有酸素運動および筋トレの基準を満たす率を高める要因となっていました。
また、運動の障害を克服する自己効力感(自信)、および、より高齢であることも、有酸素運動の基準を満たす率を高める要因となっていました。
さらに、有酸素運動の基準を満たすことは、生活の質の向上と、疲労感(倦怠感)の軽減と関連していました。
以上の結果より、
- すい臓がん患者のうち、わずか1/4程度しか、ガイドラインの基準を満たす運動をしていないこと。
- 基準を満たす運動をしている人は、本人のモチベーションが高いこと。
- 基準を満たす運動をすることで、疲労感が軽くなり、生活の質が高まること、
がわかりました。
すい臓がん患者はどのくらい運動したらいいのか?
では、すい臓がん患者にすすめられる運動量はどのくらいなのでしょうか?
先ほど紹介した、ACSM(American College of Sports Medicine;アメリカスポーツ医学会)から発表された「がんサバイバーのための運動ガイドライン」では、すべてのがん患者(がんサバイバー)に、
- 中ぐらいのきつさの有酸素運動(30分間以上)を週に3日以上
- 最大反復回数(1 repetition maximum: 1RM)の60%以上のレジスタンス運動(筋トレ)を週に2日以上
を基準として推奨しています。
患者さんによっては、この基準を満たすことが難しい場合もあると思いますが、ひとつの目安として参考になると思います。
まとめ
今回のアメリカでの調査では、すい臓がん患者のわずか1/4程度しか、ガイドラインですすめられる量の運動をしていない(あるいは、様々な理由によってできていない)現状が明らかとなりました。
すい臓がん患者にも、運動の有用性(生活の質を高める作用など)を知ってもらうことが大切です。
一方で、すい臓がん患者さんが定期的に運動する上で、障害となること(モチベーションの低下、治療の副作用や後遺症など)をいかにコントロールするかが課題だと思います。