がんによる痩せ(悪液質)を予防・改善する生活習慣とは?
がんによる死因の大部分を占める原因は、がん悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態におちいることです。
これは、さまざまな原因によって栄養状態が悪化し、急激に体重が減少することを特徴としています。がんによる「痩せ」です。
この悪液質は、とくに消化管や肝胆膵領域のがんに多くみられ、進行するにしたがって増えてきます。
膵臓がん患者における研究では、抗がん剤治療中に早期に体重が減少する症例(すなわり、悪液質を認める症例)では、生存期間が短くなることがわかっています。
つまり、がん治療中に体重が減少することは、予後不良のサインといえます。
逆に、この悪液質を予防あるいは改善することができれば、治療が長期にわたって継続できるので、効果も期待できます。結果的に生存期間も延長しますし、生活の質も高まることがわかっています。
しかしながら、どうやったら「がん悪液質」を防ぐことができるかについては、まだ確立された方法は見つかっていません。
最近では、アナモレリンといった悪液質に対する新薬の効果が報告され、話題となりました。
今回、進行した膵臓がん患者における悪液質に対して、日常生活にもとづいた集学的アプローチが有効であった症例を紹介します。
進行した膵臓がん患者に対する悪液質を改善する日常生活
55歳の女性で、ステージ3の膵臓がんの診断を受けました。
まずはFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)による抗がん剤治療を開始しましたが、3ヶ月後にがんが進行し、肝臓と骨への転移が出現しました。
その後、2次治療としてゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用療法が行われましたが、さらにがんの進行がみられ、腹部のリンパ節、肝臓、肺、骨への転移を認めました。
また、左の尿路が閉塞し、腎瘻造設が必要となりました。
過去6ヶ月に21.4%の体重減少を認め、がん悪液質と診断されました。
2次治療を開始して5ヶ月後から、悪液質に対する集学的なアプローチを開始しました。
がん悪液質に対する日常生活に基づいた集学的アプローチ
この集学的アプローチは3つの柱から構成されており、期間は3ヶ月間でした。
運動
2週間に1回、専門家の指導のもとに、60分間の運動プログラムが実施されました。
内容は、ウォーミングアップ、有酸素運動、レジスタンス運動(筋トレ)、クールダウンでした。
有酸素運動は、室内でのサイクリングまたはルームランナーによる運動で、10分から始めて25分までのばしていきました。
筋トレは、自重運動またはゴムバンドを用いた筋トレの6つのメニューを行い、少しずつ回数などを増やしていきました。
栄養サポート
2週間に1回、専門家による栄養コンサルトを行いました。
高カロリー、高タンパク質の食事指導が行われ、とくにタンパク質は1日体重あたり1.5gを摂取するように指導されました。
食事で足りないカロリーと栄養素は、経口の栄養補助食品を追加しました。
また、膵酵素剤を処方し、膵消化酵素補充療法(PERT)を行いました。
心理的サポート
週に1回の心理的サポートプログラムが行われました。
プログラムは認知行動療法にもとづき、不安、うつ、精神的苦痛を軽くするための治療を行いました。
結果
3ヶ月間のプログラムによって、身体機能および体格、症状、および生活の質(QOL)の改善がみられました。
具体的には、
- 6分間歩行距離が、プログラム開始時の416メートルから525.6メートルまで増加
- 握力が、右手22Kgから24Kg、左手22Kgから23Kgへ増加
- 体重が、プログラム開始時の49.0Kgから53.2Kgまで増加
- BMIが、18.0から19.5まで増加
- 精神的スケールにて不安、うつ症状が改善
その他、消化器系の症状(食欲不振、胸焼け、下痢など)が改善していました。
以上の結果より、今回の運動・栄養・心理的サポートからなる集学的なアプローチは、進行がん患者にみられる悪液質の予防・改善につながる可能性があるとしています。
一例の報告ですが、今後、まとまった症例での検討を待ちたいと思います。
まとめ
膵臓がん患者に対して、悪液質を改善するための集学的アプローチが有効であった症例を報告しました。
やはり、がん悪液質を防ぎ、治療を継続し、生活の質を保つためには、日常生活における工夫(運動、栄養、心理的なサポート)が必要であることを再確認する報告でした。