術前化学療法(GS療法)がボーダーライン膵臓がんの生存期間を延長:日本からの報告
膵臓がんは、たとえ切除手術ができたとしても、再発・転移することが非常に多い難治がんです。特にがんが重要な血管に接していて、切除ができるかどうか微妙な場合(ボーダーライン膵臓がんといいます)には、手術をしてもがんが残ったり、すぐに再発して予後が悪いことが問題でした。
そこで、このような膵臓がんに対して、術前抗がん剤治療(術前化学療法またはネオアジュバント療法ともいいます)が試みられるようになり、その有効性が認識されるようになってきました。
今回、日本からボーダーライン膵臓がんに対する術前抗がん剤治療の有効性を示す論文が報告されました。今後は、術前抗がん剤治療が一般的な標準治療として広く普及する可能性があります。
術前抗がん剤治療とは?
これまで、膵臓がんの標準治療として、切除可能であればまず第一に手術を行い、術後に抗がん剤治療を追加(術後補助化学療法)していました。
しかしながら、(とくに切除ができるかどうか微妙なボーダーライン膵臓がんでは、)手術で完全にがんを取り切れないことがあったり、術後の再発率が高く、満足のいく治療成績が得られないことが問題でした。
そこで、このような膵臓がんに対して、手術の前に抗がん剤治療を行う「術前化学療法」が試みられるようになりました。つまり、「いきなり切除手術をするのではなく、まずは抗がん剤で治療して、その後、手術をしましょう」という流れです。
これまでに、いくつかの海外からの臨床研究では、術前抗がん剤治療が膵臓がん患者の生存期間の延長をもたらすことが報告されていました(くわしくはこちらの記事をどうぞ「膵臓がん治療の流れが変る?術前化学療法(抗がん剤治療)の有効性が証明」)。
今回、日本からボーダーライン膵臓がんに対する術前化学療法の有効性についての研究結果が報告されました。
ボーダーライン膵臓がんに対するゲムシタビン+S-1の術前化学療法
広島大学の村上医師らは、77人の動脈へ接触するボーダーライン膵臓がんの患者のうち、切除手術を先行したグループ(手術先行群:25人)と、術前にゲムシタビン(ジェムザール)とS-1(ティーエスワン)の併用(GS療法)による抗がん剤治療を行ったグループ(術前化学療法群:52人)について後ろ向きに解析し、生存期間を含めた治療成績について比較検討しました。
結果を示します。
Cancer Chemother Pharmacol. 2017 Jan;79(1):37-47. doi: 10.1007/s00280-016-3199-z. Epub 2016 Nov 22.より引用(一部改変)
これらの結果より、術前のGS療法は、動脈に接触するボーダーライン膵臓がんの予後を延長することが示されました。術前化学療法でなんと2倍も生存期間が延びていたとのことで、驚くべき結果です。
しかしながら、この研究は一施設での後ろ向き解析であり、患者数も比較的少ないことより、今後のさらなる検討が必要であると考えられます。
まとめ
今回の日本からの研究報告では、動脈に接触するボーダーライン膵臓がんに対する術前のゲムシタビン+S-1による化学療法は安全であり(重大な副作用はない)、がんの完全切除率を高め、生存期間を延長する効果があることが示唆されました。
現在、日本での多施設の前向き研究「切除可能膵癌に対する術前GS療法の手術先行に対する優越性を検証するランダム化比較第Ⅱ/Ⅲ相試験(Prep-02/JSAP-05)」が進行中(患者登録終了)であり、近い将来この結果が報告されることと思います。
術前化学療法の効果が証明され、膵臓がん患者さんの治療成績が少しでも改善することを期待したいですね。
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