進行がん患者にみられる悪性腹水に対する治療法について:ガイドラインより
がんなど悪性腫瘍の影響によって生じた腹水を「悪性腹水」といいます。原因となるがんの種類には、卵巣がん、子宮体がん、乳がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん等があります。
多くの場合、悪性腹水は患者さんにとって非常にきつく、生活の質(QOL)を著しく低下させる原因になります。いろいろな治療法がありますが、ときに治療が難しい場合もあります。
今回、悪性腹水に対する治療法について、ガイドラインを中心にまとめてみました。
悪性腹水とは
悪性腹水とは、「悪性腫瘍の影響によって生じた腹腔内の異常な液体貯留」と考えられています。腹水がみられた患者さんのおよそ10%が悪性腹水であると報告されています。
原因となるがんの種類としては、卵巣がんが多く、子宮体がん、乳がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、原発不明がん(どこから発生したのか不明ながん)があります。
また原因となる病態として、がんの腹膜播種(ふくまくはしゅ)や多発肝転移などが報告されています。
悪性腹水の診断は、腹腔穿刺(お腹に針を刺して腹水を採取する)による腹水細胞診(腹水中の細胞の顕微鏡検査)で可能です。
悪性腹水が出現した場合、その平均予後は4ヶ月未満であると言われています。しかし、卵巣がんやリンパ腫が原因の場合には、抗がん剤治療が効果的な可能性があるため、予後が良くなる場合もあります。
悪性腹水の治療
1.食事療法
悪性腹水に効果的な食事はわかっていません。しかし、悪性腹水の患者さんでは悪液質(カヘキシア)を合併することが多く、直接的な死因となります。カヘキシアを予防・治療するためには、できるだけ経口・経腸ルートによる栄養管理が推奨され、またエイコサペンタエン酸(EPA)や分岐鎖アミノ酸(BCAA)のサプリメントが有効であるとする報告もあります。
また肝硬変による腹水の管理では減塩食が推奨されていますが、悪性腹水に対する減塩の効果については不明です。
2.輸液の調節
一般的に腹水のある患者さんでは、過剰な輸液によって腹水が悪化することがあります。逆に輸液を減量することにより腹水が減少することがあります。
3.利尿薬
悪性腹水に対しては、スピロノラクトン(アルダクトンA)やフロセミド(ラシックス)といった利尿薬(尿がよく出るようにする薬)が使用されることが多いです。これまでの研究では、利尿薬の効果は平均43%で認められているとのことです。
4.腹腔穿刺
多くの医師は、悪性腹水に対して腹腔穿刺を行っています。これまでの研究では、腹腔穿刺の効果は平均94%で認められています。また、腹水穿刺の合併症として血圧低下が心配されますが、1回の穿刺腹水量は5L以下であれば比較的安全に施行できると言われています。
また、難治性腹水に対しては、穿刺した腹水を濾過して必要な成分を体内に戻す腹水濾過濃縮再静注法(CART)を行っている施設もあります。
5.腹腔静脈シャント
何度も腹腔穿刺を行う苦痛とタンパク・水分喪失を回避する目的で、腹腔静脈シャント(PVシャント)を行うこともあります。これは、簡単に言うと腹水を血管内に戻すルートを作る治療法です。しかしながら、シャント閉塞、播種性血管内凝固(DIC)、血栓塞栓症、心不全、肝性脳症、腹膜炎などの合併症のリスクがあるため、その適応は限られています。
6.その他の治療法
様々な免疫製剤(インターフェロンα、TNFαなど)や抗VEGF治療などによる治療が試みられていますが、現段階では動物実験や小数の症例検討の報告にとどまっています。
今後のさらなる研究結果の蓄積が必要と考えられます。
まとめ
悪性腹水は、進行がん患者さんでしばしばみられる合併症です。原因が様々であることより、標準的な治療法は確立されていません。
しかし、悪性腹水は患者さんの生活の質を下げる合併症であるため、個々の患者さんにおける最善の治療法の選択が必要です。
参考資料
がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2011年版(日本緩和医療学会(編))
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