お酒(アルコール)が癌細胞の転移を促進する?大腸がん肝転移モデルでの検討
ビールが美味しい季節になってきました。でもがん患者さんにとってアルコールの影響はどうなのでしょうか?
一般的に、アルコールの過剰摂取(大量飲酒)は肝臓がん、食道がん、咽頭がん、膵臓がん、乳がんなど様々ながん発症のリスクを高めることがわかっています。
また、アルコールの摂取ががんの転移や再発と関係しているとの報告もあります。しかしながら、アルコールとがん転移についての実験データは少なく、そのメカニズムについても不明です。
今回、アルコールの摂取が大腸がんの肝転移にあたえる影響について調べた動物実験と人での臨床研究のデータを紹介します。
アルコール摂取と大腸がんの肝転移との関係:マウスでの実験
まずは、動物実験のデータから紹介します。
A Preclinical Model of Chronic Alcohol Consumption Reveals Increased Metastatic Seeding of Colon Cancer Cells in the Liver. Cancer Res. 2016 Apr 1;76(7):1698-704. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-15-2114. Epub 2016 Feb 8.
今回の実験では、マウスの脾臓(ひぞう)に大腸がん細胞を注入する肝転移モデルです。脾臓に注入した大腸がん細胞は血管を通じて肝臓に到達し、そこでがんのかたまり(転移巣)へと成長します。
このマウスを、以下の4つのグループに分けました。
1.水(コントロール)を飲ませるグループ
2.腫瘍の注入前にアルコールを4週間飲ませるグループ
3.腫瘍の注入後に3週間アルコールを飲ませるグループ
4.腫瘍の注入前4週間と3週間後までアルコールを飲ませるグループ
結果を示します。
水を飲ませたグループに比べ、アルコールを飲ませたグループ(前、後、前後すべてのグループ)で肝臓転移の個数が多く、また肝臓の重量、および体重に対する肝臓の重量が重いという結果でした(下図)。
つまり、時期に関係なく、アルコールを摂取したマウスでは大腸がん細胞の肝臓への転移が増えたという結果でした。
さらに、アルコールによる肝転移の増加についてのメカニズムを調べるために、肝臓における炎症のマーカーと、さらに血液中の免疫細胞についても調査しました。
その結果、4週間アルコールを摂取したマウスの肝臓ではTNFα、IL-1β、IL6、IFNγといった炎症性サイトカインが増加していました。
さらに、4週間アルコールを摂取したマウスでは、血液中のナチュラル・キラー(NK)細胞とCD8+T細胞の数が減少していました。
つまり、アルコールによる肝転移の増加は、肝臓での炎症と、がんを攻撃する免疫細胞が低下することが原因と考えられました。
アルコールは大腸がん患者の肝転移を促進するのか?人における疫学研究
このようにマウスのモデルでは、アルコール摂取は大腸がん細胞の肝臓への転移を促進するという結果でした。
では、実際に人ではどうなのでしょうか?
過去に、日本から大腸がんの肝転移とアルコールの関係について、1つの疫学研究が報告されています。
Alcohol consumption enhances liver metastasis in colorectal carcinoma patients. Cancer. 1998 Oct 15;83(8):1483-8.
133人の大腸がん患者を対象としており、このうち34人(25.6%)に肝転移が認められました。
肝転移があるグループと肝転移のないグループに分けて比較したところ、性別、腫瘍の部位、深さ、大きさ、組織型などには差がなかったものの、がんの血管浸潤(P = 0.0045)とアルコール摂取(P = 0.0021)が転移を認めるグループで有意に多いという結果でした。
アルコールを摂取するグループの肝転移のリスクは、摂取しないグループに比べて2.57倍でした。
ただ、アルコールの摂取量や種類(日本酒、ビール、ウイスキー)に関しては差を認めませんでした。
まとめ
以上より、アルコールの摂取は大腸がんの肝転移のリスクを高めることが示されました。
大腸がん患者でアルコールを飲む人は特に肝転移に注意が必要であると結論づけています。
しかしながら、本研究は比較的患者数が少なく、また後ろ向きの調査であるため、限界もあります。
アルコールとがんの転移との関係を証明するためには、さらなる研究が必要と考えられます。
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