センチネルリンパ節陽性の乳癌でも腋窩リンパ節郭清は必要ない?10年生存率の比較より
乳がん患者の手術では、これまで長い間、腋窩リンパ節郭清(腋のリンパ節の摘出)が行われてきました。
腋窩リンパ節郭清は局所を制御するよい方法ではありますが、一方で上肢リンパ浮腫(むくみ)、しびれ、上肢の挙上制限など、さまざまな合併症・後遺症を伴います。
センチネルリンパ節生検(がんが最初に転移すると想定されるリンパ節に転移があるかどうかを術中に調べる検査)が導入されてからは、陽性例にのみに腋窩リンパ節郭清が行われるようになりました。
しかし、放射線治療の追加や補助化学療法など、乳がんの治療法が変化し、生存率が改善するなか、センチネルリンパ節が陽性であった乳がん患者にはたして腋窩リンパ節郭清は必要か?といった疑問も生じてきました。
今回、センチネルリンパ節が陽性であった乳がん患者に対し、センチネルリンパ節の摘出のみで腋窩郭清を追加しなかったグループと腋窩郭清を追加したグループの10年生存率を比較した第三相無作為化臨床試験(ACOSOG Z0011)の結果が報告されました。
この結果によると、T1またはT2の乳がんで、触知可能な腋窩リンパ節の腫大はなく、センチネルリンパ節1~2個が転移陽性だった患者においては、ルーチンの腋窩リンパ節郭清は必要なしと結論づけています。
センチネルリンパ節生検とは?
センチネルリンパ節(見張りリンパ節)とは、がんがリンパ管を通じて最初に流れ着くと想定されるリンパ節のことです。
手術前に色素や放射性物質を含む薬剤を腫瘍の近くに注入することによって、手術中にセンチネルリンパ節を同定し、顕微鏡検査にてがん転移があるかどうかを調べます。これをセンチネルリンパ節生検といいます。
通常、センチネルリンパ節転移が陽性であった場合、腋窩郭清(残りの腋のリンパ節を摘出する)を追加します。センチネルリンパ節に転移がなければその先への転移はない可能性が高いと考え、腋窩リンパ節郭清を省略します。
なお、触診や画像検査であきらかに腋窩リンパ節に転移がある(あるいは強く疑われる)場合、腫瘍が大きくリンパ節転移の可能性が高い場合には、センチネルリンパ節生検は行わず、通常の腋窩リンパ節郭清を行っています。
センチネルリンパ節転移陽性の乳がんに対する腋窩リンパ節郭清追加と腋窩リンパ節郭清省略の10年生存率の比較
ACOSOG Z0011試験は、センチネルリンパ節転移陽性の乳がん患者に対して、乳房温存手術とセンチネルリンパ節摘出だけの治療が、乳房温存手術と腋窩リンパ節郭清を追加した治療に対して非劣性(ひれっせい:劣っていない)であることを証明するための第三相ランダム化比較試験です。
この試験では、115の施設で治療を受けたT1またはT2(5cm以下)の浸潤性乳がんで、触知可能な腋窩リンパ節の腫大がなく、1または2個のセンチネルリンパ節に転移がある患者を登録しました。
最終的に856人が試験を終え、このうち446人はセンチネルリンパ節切除のみ群で、445人が腋窩リンパ節郭清群にランダムに割り付けられました。
両群ともほぼ同様に放射線治療および補助化学療法(抗がん剤)を受けていました。
両群間における10年全生存率および無再発生存率を比較しました。結果を示します。
以上の結果から、T1またはT2の浸潤性乳がんで、触知可能な腋窩リンパ節の腫大はなく、センチネルリンパ節1~2個が転移陽性だった患者において、センチネルリンパ節摘出のみを受けたグループの10年全生存率は、腋窩リンパ節郭清を追加したグループに対して劣っていない(差がない)ことが示されました。
今回の結果により、これらの乳がん患者に対するルーチンの腋窩リンパ節郭清は必要なしと結論づけています。
腋窩リンパ節郭清が省略できれば、リンパ浮腫をはじめ、多くの患者さんの生活の質(QOL)を低下させる後遺症の心配がなくなります。
今後の乳がんに対する手術のながれが変わる可能性がある結果として注目したいと思います。
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