FOLFIRINOX後のジェムザール+アブラキサンで局所進行切除不能膵臓がんが切除可能に!
膵臓がんは、初期には自覚症状に乏しいことより、多くの場合、診断時にはかなり進行しています。
なかでも、離れた臓器には転移を認めないが、がんが重要な血管に巻きついているために切除ができない状態、いわゆる「局所進行切除不能膵臓がん」が30~40%にものぼるといわれています。
これらの局所進行切除不能膵臓がんに対しては、全身化学療法(抗がん剤)あるいは放射線治療を追加することが一般的ですが、これまではあまり効果が期待できませんでした。
一方で、FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)やゲムシタビン(ジェムザール)とナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法など最近の新しい抗がん剤治療の導入によって、なかには切除不能であったがんが縮小し、切除が可能となる症例もでてきました。
今回、切除不能の局所進行膵臓がんに対してファーストライン(1次治療)の化学療法としてフォルフィリノックスが選択され、セカンドライン(2次治療)としてゲムシタビン+アブラキサン治療を行い、最終的に切除が可能となった症例の報告がありましたので紹介します。
局所進行膵臓がんに対する化学療法(抗がん剤治療)
局所進行膵臓がんに対する現在の治療の中心は、全身化学療法(抗がん剤治療)です(欧米では抗がん剤+放射線治療)。
現在、日本において局所進行膵臓がんに対して行われている抗がん剤の治療法(レジメン)には、大まかに以下の5つの治療法があります。
1.ゲムシタビン(ジェムザール)単独療法
2.S1(ティーエスワン)単独療法
3.ゲムシタビン+S1(ティーエスワン)併用療法
4.FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法:オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、5-FUの併用
5.ゲムシタビン(ジェムザール)+ナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法
とくに最近、活動性(パフォーマンスステイタス)が保たれている患者さんには、治療効果の高い4のフォルフィリノックスと5のゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法がよく使われるようになりました。
実際にこれらの抗がん剤治療によってがんのステージが下がり(ダウンステージ)、切除不能の膵臓がんが切除可能となるケースも出てきました。
関連記事:膵臓がんステージ4でもあきらめない!抗がん剤によるダウンステージングとは?
フォルフィリノックス→ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用によって切除可能となった局所進行膵臓がんの2例
症例1:44歳男性
2ヶ月間つづく心窩部痛(みぞおちの痛み)を訴えて消化器科を受診。
CT検査にて、膵体部(膵臓の中央部)に腫瘍をみとめました。遠隔臓器への転移やリンパ節転移は認めませんでしたが、がんは主要血管である腹腔動脈に接しており、また総肝動脈を180°以上にわたって取り囲んでいました。このため、局所進行切除不能膵臓がんと診断されました。
患者さんの活動性(パフォーマンスステイタス)は良好であったため、フォルフィリノックスが最初に選択されました。
フォルフィリノックスを4サイクル施行し、重大な副作用はみられませんでした。2ヶ月後のCTでは10%程度の腫瘍の縮小がみられましたが、依然として腹腔動脈へ接したままでした。その後、さらに4サイクルを行いましたが、切除不能の状態は変わりませんでした。
そこで、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの併用療法へと変更しました。3サイクルを行ったところ、CTにて腫瘍の縮小と血管への浸潤の改善がみられました。同時に腫瘍マーカーであるCA19-9も正常レベルまで低下していました(下図)。このため、手術を行うこととなりました。
手術所見では、腹膜や肝臓への転移なく、膵体尾部切除術を行いました。手術中に総肝動脈のまわりの組織を顕微鏡で検査しましたが、明らかな悪性細胞はみられませんでした。よって、がんを残すことなく切除できました(R0切除)。
術後にもゲムシタビン+ナブパクリタキセルの併用療法を3ヶ月追加しましたが、その2ヶ月後にCTにて局所再発とがん性腹膜炎の所見が疑われました。現在、緩和目的の抗がん剤治療中とのことです。
症例2:62歳女性
もともと糖尿病がある患者さんで、下痢(10~12回/日)と体重減少(6ヶ月間に10キロ以上)のため消化器科を受診しました。
CT検査にて膵頭部に腫瘤(15 × 25 mm)があり、主要血管である上腸間膜静脈を巻き込んでいました。このため、ボーダーライン膵臓がん(がんが重要な血管に接していて、完全に切除ができるかどうか微妙な膵臓がん)と診断されました。
まずはフォルフィリノックスによる化学療法を4サイクル行いました。倦怠感はありましたが、重大な副作用はみられませんでした。
治療2ヶ月後のCTでは腫瘍の進行と、上腸間膜動脈への浸潤が新たに出現しました。
このため、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法へ変更しました。3サイクル後の再評価のためのCTでは、29%もの腫瘍縮小と、上腸間膜動脈との接触の減少(180°以下)が認められました。
このため切除可能と判断し、膵全摘術が行われました。術後には軽度の低栄養状態が出現し、経腸栄養を数ヶ月間継続しました。
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法をさらに術後2サイクル(3サイクル目は副作用のため断念)追加し、1年以内の定期検査では腫瘍の再発を認めていません。
まとめ
以上、局所進行切除不能膵臓がんに対して、1次治療としてのフォルフィリノックスの効果が認められず、2次治療としてのゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が効いて切除可能となった症例でした。
新たな抗がん剤レジメンの導入により、切除不能膵臓がんに対する治療の選択肢が広がり、このように切除可能となる例が増えています。
以前であれば緩和ケアへ移行するしかなかった切除不能膵臓がんでも、活動性と体力が保たれている患者さんでは、フォルフィリノックスやゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(あるいは、現在臨床治験中の新たな抗がん剤/レジメン)の効果に希望がもてる時代となりました。
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佐藤先生、
記事はいつも拝読しております。
今回の記事で膵がんの治療の難しさを改めて実感しました。
固形がんは手術が第一選択とされているも、手術は2次がんをおこすトリガーという側面も無視できないことは今までも言われてきています。
膵がんでは、「手術できるなら手術」が重要になることを、これら症例は表しているのでしょうか。(局所再発・遠隔転移のリスクはあっても)手術できれば手術することのリスクとベネフィットを考えた時に、「リスク≦ベネフィット」と判断されて、手術が行われるということなのでしょうか。
患者側も判断が難しいと感じました。
まりん様
いつもお読みいただきありがとうございます。
本当にまりんさんが指摘されたとおりで、膵臓がんでは手術のベネフィットとリスクのバランスが最も難しいと思います。
実際に、症例1ではすぐに再発していますので、手術のメリットはほとんど無かったと考えられます。
ただ、やはり現時点で長期生存の可能性をもたらすのは根治切除しかないので、とくに若い膵臓がん患者では「切除ができれば切除がベスト」と考えております。
いずれにしても、患者さんにとって手術のリスクとベネフィットを含めた判断は非常に難しいと思います。
佐藤