抗がん剤治療中の癌患者さんにインフルエンザ予防接種は有効で安全か?
インフルエンザのシーズンになると、外来に通ってこられるがん患者さんから「インフルエンザの予防接種は受けたほうがいいですか?」という質問を受けることが増えてきます。
とくに、化学療法中(抗がん剤治療)のがん患者さんでは、「インフルエンザのワクチンは効果があるのか?」といった疑問や「副作用は大丈夫なのか?」という心配が大きいようです。
一般的には、がん(固形癌)の患者さんにもインフルエンザ予防接種は推奨されていますので、「どうぞ受けてください」とおすすめしています。
今回、海外から、抗がん剤治療中の固形がん患者さんにおけるインフルエンザ予防接種の安全性、有効性などについて、これまでの研究をまとめた論文が報告されていました。
日本人でのデータではありませんが、参考になると思いますので紹介します。
抗がん剤治療中の固形がん患者におけるインフルエンザ予防接種についての論文
Influenza vaccination in adult patients with solid tumours treated with chemotherapy. Eur J Cancer. 2017 May;76:134-143. doi: 10.1016/j.ejca.2017.02.012. Epub 2017 Mar 17.
海外の文献検索により、抗がん剤治療中の固形がん患者におけるインフルエンザワクチンの有効性および安全性などについての論文を調査したところ、20の研究(無作為化比較試験はなし)がヒットしました。
がんの種類に関しては、肺がん、大腸がん、乳がん、卵巣がんなど、さまざまでした。
これらの文献について、インフルエンザワクチンの臨床的有効性、血清学的効果、安全性、および接種のタイミングについて詳細に検討した結果をみていきます。
1.臨床的有効性:抗がん剤治療中のがん患者さんにインフルエンザワクチンは効果があるのか?
抗がん剤治療をうけているステージ4の大腸がん患者1225人を対象とした後ろ向きコホート研究です(J Clin Oncol. 2003 Mar 15;21(6):1161-6)。
患者さんの40%がインフルエンザワクチン接種を受けており、残りの60%の受けていない患者さんと比較しました。
その結果、ワクチン接種を受けた患者グループでは、受けてない患者グループと比べてインフルエンザおよび肺炎にかかる率が有意に少なかったという結果でした。
また、ワクチン接種グループでは、抗がん剤治療が中止となる頻度も少ない結果でした。
さらに多変量解析(多くの関連因子を同時に解析する方法)では、インフルエンザの予防接種は、1年後の死亡率(すべての原因)を12%減少させる因子でした。
以上の結果より、抗がん剤治療中の固形がん患者におけるインフルエンザの予防接種は、インフルエンザ感染および肺炎の発生率を減少し、生存率の改善にもつながる可能性が示されました。
2.血清学的効果:抗がん薬治療中のがん患者でもインフルエンザワクチン接種で有効な抗体ができるのか?
インフルエンザワクチンの効果は、ウイルスに対する有効な抗体ができることで発揮されます。
つまり、ワクチンを接種しても抗体が産生されなければ効果が期待できません。
20の臨床試験において、固形がん患者にインフルエンザワクチンの接種後に血清学的調査が行われていました。
このうち15の臨床試験では、がん患者における抗体陽転率は8-83%と非常に幅広く、がんの種類、ワクチンの種類や接種のタイミングによって変わってくると考えられています。
8つの研究では、抗がん剤治療の有無によって抗体陽転率に差はないという結果でした。
また、健常な人と比較して固形がん患者における抗体陽転率は低いとする報告がありますが、一方で差を認めないとする報告もあります。
すなわち、血清学的評価においても、抗がん剤治療中のがん患者でもインフルエンザワクチンの効果(抗体陽転率)が期待できるという結果でした。
3.安全性:抗がん薬治療中のがん患者におけるインフルエンザワクチン接種の副作用は?
これまでの報告では、がん患者における不活化インフルエンザワクチン接種に伴う重大な副作用についての報告はありません。
ワクチン接種後の発熱などの報告もほとんどありません。
したがって、抗がん剤治療中であってもインフルエンザの予防接種は安全に受けられると考えられています。
4.ワクチン接種のタイミング:いつ受けたら良いのか?
ワクチン接種により抗体が産生されるまでには約1~2週間かかります。
インフルエンザの流行は通常12月頃からはじまり、1~3月上旬にピークを迎えますので、おそくとも12月中旬までには接種しておくことが望ましいとされています。
また、一般的に抗がん剤治療中の患者さんの場合、抗がん剤治療が始まる少なくとも2週間前、および抗がん剤治療が終わってから3ヶ月後が推奨されています。
3投1休(3週間投与後に1週間の休薬期間)など、タイトなスケジュールの場合には、できればコースの間(インターバル)に受けるのがよいと思います。
しかしながら、ワクチン接種の時期(抗がん剤治療の前、途中、後)はワクチンの効果(抗体産生能)に関係しない、あるいは抗がん剤治療中の方が効果が高まるという報告もあり、一定の見解は得られていません。
がんの種類や使用する抗がん剤の種類、投与スケジュールなどによってベストのタイミングは異なる可能性が指摘されています。
まとめ
抗がん剤治療中の固形がん患者さんにも、インフルエンザ感染による重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの予防接種がすすめられます。
がん患者さんでもワクチンの副作用は健常人と同様であり、安全であると考えられます。
接種を受ける時期に関しては、抗がん剤治療が開始される前が推奨されていますが、治療中でも問題ないようです。
いずれにせよ、例年12月にはインフルエンザの流行が始まりますので、なるべく早く(可能ならば11月中に)接種をうけることをおすすめします。
注意点:固形癌以外の悪性腫瘍(白血病や悪性リンパ腫)の患者さん、また免疫抑制剤を服用されている患者さんにおけるインフルエンザワクチンの接種に関しては、主治医にご相談ください。
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