膵臓がんに新たな治療:ヒアルロン酸を分解するPEGPH20と抗がん剤の併用が生存率改善
ヒアルロン酸は、細胞の外側に存在する細胞外マトリックスと呼ばれるもので、皮膚や関節などを中心に、体のあらゆる組織に存在します。
ヒアルロン酸は、その水分を保つ作用から、潤滑油やうるおい成分として重要な機能をはたしています。
一方で、ヒアルロン酸はがんにとっては厄介な存在なのです。
これまでの多くの研究により、ヒアルロン酸はがんの悪性度を高めて浸潤・転移を促進し、さらには抗がん剤などの治療が効かない原因になっていることがが明らかとなってきました。
このヒアルロン酸をターゲットとした新しい治療法が、ヒアルロン酸を分解する酵素製剤であるペグ化ヒアルロニダーゼ(PEGPH20)です。この薬剤によってがん細胞のまわりのヒアルロン酸をとかし、抗がん剤が届きやすくするという戦略です。
今回、転移性の膵臓がん(ステージ4)に対して、PEGPH20をゲムシタビン(ジェムザール)とナブパクリタキセル(アブラキサン)と併用することで、生存率が大幅に改善したという第II相ランダム化比較試験(HALO 202)の結果がアメリカから報告されました。
ヒアルロン酸をターゲットにした新しいがん治療
我々(産業医科大学第一外科)の膵癌研究室では、膵臓がんとヒアルロン酸との関係について研究をつづけてきました。
これまでに明らかとなったヒアルロン酸とがんとの関係をまとめます。
これらのがんにおけるヒアルロン酸の役割を考えると、ヒアルロン酸をターゲットにした新しいがんの治療戦略が考えられます。
例えば下の図のように、3つの治療アプローチが考えられます。
佐藤典宏 膵臓 2016; 31; 128-134.より引用(一部改変)
② ヒアルロン酸とレセプターとの結合およびシグナル伝達を阻害するアプローチ
③ がんのまわりの組織のヒアルロン酸を除去する
このうち、3番目のアプローチ法が開発され、実際に海外では臨床試験の段階です。
つまり、ヒアルロン酸を分解する酵素製剤(ペグ化ヒアルロニダーゼ:PEGPH20)を使った治療で、がん間質に蓄積したヒアルロン酸をとかして除去することにより、抗がん剤ががん細胞へ届きやすくなり、治療の効果が高まることが期待されます。
今回、難治癌として有名な膵臓がんを対象とした臨床試験において、このPEGPH20と他の抗がん剤(2剤)との併用療法の有効性を調査した臨床試験の結果が報告されました。
膵臓がんに対するPEGPH20とゲムシタビン/ナブパクリタキセルの併用療法:ランダム化第二相比較試験
【対象と方法】
本試験は、転移を認める膵臓がんに対して、現在の標準治療であるジェムザール/アブラキサン併用療法に、PEGPH20を上乗せする有効性を調査する目的で行われた、第二相ランダム化比較試験です。
未治療の転移性膵臓がん患者279人を対象とし、PEGPH20+ジェムザール/アブラキサンの併用群(PEHPH20群)とジェムザール/アブラキサンのみ(コントロール群)にランダムに割り付けました。
試験の途中で、PEGPH20群における血栓塞栓性イベントの多発によって一旦中止となっていましたが、抗凝固薬(エノキサパリン)の予防的投与とともに再開されました。
また、がん組織におけるヒアルロン酸の発現を調べ、ヒアルロン酸高発現(全体の50%以上)とヒアルロン酸低発現(全体の50%未満)に分類しました。
【結果】
【結論】
以上の結果より、転移性膵臓がん(とくにヒアルロン酸が多いがん)に対して、ヒアルロン酸分解酵素であるPEGPH20をジェムザール/アブラキサンに併用することで、無増悪生存率が改善することが示されました。
安全性に関しても、重大なものはなく、抗凝固薬を投与することで血栓塞栓性の合併症を防ぐことが可能でした。
この結果をうけ、ヒアルロン酸の多い患者を対象として、海外では第三相臨床試験が進行中です。今後、PEGPH20が難治癌である膵臓がんの新たな治療薬となる可能性が高いと考えられます。
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