小細胞肺がんに新たな分子標的薬ベネトクラックス(BCL-2阻害剤)が有効
小細胞肺がん(small cell lung cancer, SCLC)は肺がん全体の10~15%と比較的少ないのですが、悪性度が高く予後が悪いがんとして知られています。
化学療法や放射線療法に対する感受性(効果)が高いのが特徴で、抗がん剤ではシスプラチン(あるいはカルボプラチン)にイリノテカンやエトポシドを併用したレジメンが有効ですが、初回治療後に80~90%は再発するといわれています。
このため、小細胞肺がんの5年生存率は10%未満にとどまっています。
近年、非小細胞肺がんに対しては効果的な分子
今回、海外の研究における薬剤感受性スクリーニングの結果、小細胞肺がんに対して新たな分子標的薬ベネトクラックス(BCL-2阻害剤)が有効であることが発見されました。
新規分子標的薬ベネトラックスとは?
ベネトクラックス(venetoclax)は、細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)が起こるときに重要な働きをするBCL-2蛋白を阻害する分子標的薬です。
BCL-2は一部のがんで高発現しており、アポトーシスを抑制するはたらきがあるため、このBCL-2を阻害することによってがん細胞をアポトーシスに誘導することが可能となります。
その高い有効性から、米国食品医薬品局(FDA)によって(染色体17p欠失)慢性リンパ性白血病に対する画期的治療薬として承認されています。
また、日本においても、血液がんの患者を対象にベネトクラックスの安全性を評価する第1相試験が行われています。
一方で、この薬剤の固形癌に対する有効性については過去に報告がありませんでした。
小細胞肺がんにベネトクラックスが有効:薬剤感受性スクリーニングによる同定
研究者らは、BCL-2阻害剤ベネトクラックスが効く他の種類のがんを見つけるために、950種類以上のがん細胞株(うち791種類は固形がんから樹立)のスクリーニングを行いました。
その結果、小細胞肺がんが特にベネトクラックスに感受性が高いことがわかりました。
また、小細胞肺がんのうち、抗アポトーシス作用があるタンパクであるBCL-2の発現が高い細胞株はベネトクラックスに感受性が高く、一方BCL-2の発現がない細胞株はベネトクラックスに感受性がないことがわかりました(下図)。赤の斜線で囲んだBCL-2の発現が高い細胞株(たとえば左端のIST-SL2など)では感受性があり、一方BCL-2の発現がない細胞株(たとえば右端のSW1271など)では感受性がないことがわかります。
さらに、マウスの皮下にがん細胞を移植する動物モデルでも実験を行いました。
試験管でのデータと同様に、BCL-2発現をみとめない細胞株(NCI-H82)のマウス移植モデルではベネトクラックスの効果がみられませんでしたが、BCL-2を高発現している小細胞肺がん患者から採取したがん細胞(LU5263)のマウス移植モデルでは、ベネトクラックスの治療によってがんの成長をほぼ完全に阻止することができました(下図)。
以上の結果より、ベネトクラックスはBCL-2の発現の高い小細胞肺がんに対して強い抗腫瘍作用をもつ分子標的薬であることが示されました。
まとめ
大規模な薬剤感受性スクリーニングにより、ベネトクラックスが、BCL-2を発現する小細胞肺がんに有効であることがあきらかになりました。
現在アメリカでは、ベネトクラックスは一部の慢性リンパ性白血病の患者さんに対する画期的治療薬として使われています。
ベネトクラックスは、治療薬が限られている肺小細胞肺がんに対する新しい治療法となる可能性があります。今後の臨床試験を含めたさらなる研究の成果が期待されます。
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