がん手術までの待ち時間(手術の遅れ)は生存率に影響するのか?:膵臓癌の場合
がんと診断されてから手術までの期間(待ち日数)は、緊急手術をのぞき、およそ1週間から1ヶ月の範囲がほとんどだと思います。
ただ、病院によってかなり差があるのも確かです。私もいろいろな病院に勤めてきましたが、病院の規模や手術予定の患者さんの数によって手術までの待ち時間は大きく違っていました。
たとえば手術が少ない病院であれば早めに手術を受けることができます。一方、手術が多い病院では1ヶ月(場合によっては2~3ヶ月)以上待たないといけない場合もあります。早期がんの手術よりも進行がんの手術を優先する病院もあります。
がんの診断がつき、手術を受けることが決まった患者さんは、「待っている間に、がんが広がったり転移したりするかもしれないので、一刻も早く手術で取り除いてほしい」と思うでしょう。
実際にわたしの外来でも、がん患者さんに手術予定日を告げると、「そんなに遅くて大丈夫ですか?」「もっと早くなりませんか?」と心配される人がいらっしゃいます。
では、実際に手術が遅れると、その間にがんが進行してしまい、治療成績(生存率)が悪くなるといったエビデンスはあるのでしょうか?
今回は、膵臓がん(膵癌)における手術までの待機期間と予後との関係について海外からの研究結果を紹介します。
膵臓がんにおける手術までの待機期間と予後との関係
Does the surgical waiting list affect pathological and survival outcome in resectable pancreatic ductal adenocarcinoma? HPB (Oxford). 2017 Nov 27. pii: S1365-182X(17)31130-9. doi: 10.1016/j.hpb.2017.10.017. [Epub ahead of print]
【対象と方法】
海外(イタリア)の病院における後ろ向き研究の報告です。
切除可能と診断され、手術をうけた膵臓がん患者217人を対象としました。
このうち、診断から手術までの待機期間が30日未満であった患者が112人(52%)であり、30日以上であった患者が105人(48%)でした。
待機期間が長くなった理由は、非典型的な症例で診断に時間がかかったため、黄疸(おうだん)の改善に時間がかかったため、あるいは患者さん自身が(おそい手術日を)選択したため、などでした。
手術までの待機期間が30日未満のグループと30日以上のグループに分けて、CT検査における腫瘍サイズの変化、組織学的特徴、根治切除(がんを取り残さずに切除できた割合)、および再発・生存率について比較しました。
【結果】
■ 患者さん全体での解析では、30日以上待機した患者では、30日未満の患者と比べて腫瘍サイズの増大がひどくなっていました(30日以上で+3mm、30日未満で+1mm、P = 0.04)。
■ 患者さん全体での解析では、リンパ節転移の状態、根治切除率、再発率(30日以上で48.8%、30日未満で48.9%)および生存期間(30日以上で31ヶ月、30日未満で29ヶ月)に差を認めませんでした。
■ ところが、腫瘍のサイズが20mm未満の膵臓がん患者84人に限った解析では、30日以上待機した患者では、30日未満の患者と比べて有意に生存期間が短くなっていました(P = 0.02)(下図)。
■ 一方、20mm以上の比較的大きな膵臓がん患者では、待機期間によって生存期間に差はありませんでした。
【結論】
以上の結果より、比較的小さな膵臓がんの場合、手術までの待機期間が30日より長くなると生存率が低下するという結果でした。
したがって、このような患者においては、(医学的理由で延期を余儀なくされる場合をのぞいて)手術が遅れるべきではないと結論づけています。
まとめ
今回の研究結果によると、膵臓がんの場合、腫瘍が比較的小さな段階では、手術までの待機期間が長くなると生存率が低下する可能性があるとのことです。
最近では膵臓がんに対しても術前化学療法(抗がん剤)の有効性が証明されつつあります。
今後は切除可能な膵臓がんに対しても、いきなり手術をするのではなく、手術の前に抗がん剤治療を行うことが一般的になるかもしれません。
その場合には、単純に手術までの期間が短い、長いといった評価ができなくなります。
しかし現時点では、比較的小さな膵臓がんの手術では、できるだけ早くしてもらう方がよいと考えられます。
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