運動によって筋肉から分泌されるマイオカインに強力な抗がん作用!
運動をすると、筋肉からさまざまな物質(ホルモン)が血中に分泌されますが、これをマイオカイン(ミオカイン)と呼びます。
最近、このマイオカインの抗がん作用に注目が集まっています。
これまで多くの研究によって、運動ががんの予防や治療に有効であることが示されてきました。
例えば、ウォーキングなどの適度な運動が、13種類ものがんの発症を予防することや、がんの診断後に運動をつづけることで、再発率や死亡率が有意に低下すると報告されています。
しかし一方で、そのメカニズムについては未だ解明されていません。
最近、運動ががんを抑制するメカニズムのひとつに、筋肉から分泌されるマイオカインが関与している可能性が明らかになってきました。
今回、代表的なマイオカインを紹介し、その抗がん作用について解説します。
マイオカインとは?
マイオカイン(myokine)とは、筋肉の(myo)作動物質(kine)という意味のことばで、運動によって骨格筋から分泌されるサイトカイン(生理活性物質)の総称です。
次々に新たなマイオカインが発見され、現在までに、じつに3000種類以上もあると言われています。
このマイオカインには、糖尿病や肥満など生活習慣病に対する予防あるいは治療効果があることがわかっています。
また最近、一部のマイオカインには、抗がん作用や、免疫力を高める作用があることが報告され、がん治療の分野においても注目されています。
Exercise-induced myokines as emerging therapeutic agents in colorectal cancer prevention and treatment. Future Oncol. 2018 Feb;14(4):309-312. doi: 10.2217/fon-2017-0555. Epub 2018 Jan 10.
これまでに報告されている、代表的な抗がんマイオカインを紹介します。
がん抑制作用をもつマイオカイン
SPARC(スパーク)
A novel myokine, secreted protein acidic and rich in cysteine (SPARC), suppresses colon tumorigenesis via regular exercise. Gut. 2013 Jun;62(6):882-9. doi: 10.1136/gutjnl-2011-300776. Epub 2012 Jul 31.
京都府立大学の研究チームは、SPARC(スパーク)という物質が、運動によって人およびマウスの筋肉(骨格筋)から分泌されるマイオカインであることを発見しました。
さらに、マウスを用いた実験により、このSPARCが、がん細胞および前がん細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)をうながし、大腸がんに対して抗がん作用を示すことを証明しました。
つまり、運動をすることで筋肉から分泌されるマイオカインの一種であるSPARCが、大腸がんを予防していると考えられます。
ちなみに、このSPARCは、私が以前、留学先のジョンズホプキンス大学で研究していた分子であり、膵臓がん細胞の増殖を抑制することを報告しています。
SPARC/osteonectin is a frequent target for aberrant methylation in pancreatic adenocarcinoma and a mediator of tumor-stromal interactions. Oncogene. 2003 Aug 7;22(32):5021-30.
イリシン
Effects of the exercise-inducible myokine irisin on malignant and non-malignant breast epithelial cell behavior in vitro. Int J Cancer. 2015 Feb 15;136(4):E197-202. doi: 10.1002/ijc.29142. Epub 2014 Aug 30.
研究者らは、マイオカインのひとつであるイリシンが、乳がん細胞(MDA-MB-231)の増殖、遊走、および生存といった悪性化を抑える効果があることを発見しました。一方で、正常の乳腺上皮細胞であるMCF-10aには影響を与えなかったとのことです。
イリシンは、NFκBの活性化を防ぐことより、炎症を抑えることが分かりました。
これらの所見より、イリシンは、乳がんの予防や治療に有効である可能性があるとしています。
IL-6(インターロイキン6)
Muscling In on Cancer. N Engl J Med. 2016 Sep 1;375(9):892-4. doi: 10.1056/NEJMcibr1606456.
運動によって分泌されるマイオカインのひとつであるインターロイキン6(IL-6)は、がんの免疫監視システムで重要や役割をはたしているナチュラル・キラー細胞(NK細胞)を活性化し、がんに対する攻撃を強めることがわかっています。
すなわち、マイオカインには、がんに対する免疫力を高める作用もあるのです。
まとめ
このように、運動によって筋肉から分泌されるSPARC、イリシン、あるいはIL-6といったマイオカインが、がんの抑制に関与していることが証明されています。
これ以外にも、多くのマイオカインが発見され、がんとの関係についての研究がすすんでいます。
これらのマイオカインをさらに研究することにより、新たな抗がん剤やがん予防サプリメントなどの開発が期待されています。
たとえば、運動ができない人でもこのようなマイオカインを投与することで、がんの治療効果が得られる可能性もあります。
マイオカインを分泌する運動とは?
マイオカインは運動によって骨格筋より分泌されますが、どのような運動をどの程度すれば最も分泌されるかについては、まだ研究段階です。
しかし、とくに腹筋や太ももなど下半身の筋肉から分泌されるとのことですので、腹筋運動やスクワットがよいと考えられています。
また、必ずしも筋トレのような無酸素運動だけでなく、ウォーキングやエアロバイク(自転車こぎ)といった有酸素運動でもマイオカインが分泌されることがわかっています。
運動は、お金もかからず手軽にできることより、「最もコストパフォーマンス(費用対効果)が高いがん治療薬」と言えます。
がんの予防や治療のために、毎日の運動を習慣にしましょう。そして、頼りになるマイオカインを全身にみなぎらせましょう!
応援よろしくおねがいします
いつも応援ありがとうございます。 更新のはげみになりますので、「読んでよかった」と思われたら クリックをお願いします_(._.)_!
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
三重大学の産学連携コーディネーターを担当しております。
運動が、癌予防や癌治療への可能性が有ることを知り大変参考になりました。
今後の企業様との産学連携への活用を模索したいと考えます。
今後とも情報提供等をよろしくお願いします。
佐藤典宏のご健勝と研究の益々のご発展を祈念しています。
三重大学産学連携コーディネーター
権藤 吉彦
権藤 吉彦様
記事がお役に立てたとのことで、うれしく思います。
運動とがんはとても密接に関係していますので、産学連携のテーマとして面白いと思います。
今後ともよろしくお願いします。
佐藤典宏