「ドクターX 」大門未知子のように失敗しない外科医はいるのか?

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外科医が登場する映画やドラマはたくさんあるのですが、最近では天才外科医・大門未知子が主人公の「ドクターX」が大ヒットし、話題となりました。

われわれ外科医としては、大門未知子の「私、失敗しないので。」というかっこいい決めゼリフが衝撃的でした(もちろん、こんなセリフは実際には言えませんが・・・)。

「手術の成功」の定義は難しいのですが、手術で「失敗しない」とは、少なくとも「手術中や手術後に合併症がおこらない」という意味だと思います。

命をあずける患者さんとしては、当然「失敗しない腕のよい外科医」に手術をお願いしたいのではないでしょうか?

しかし、はたして大門未知子のような「失敗しない外科医」はいるのでしょうか?

実は、「ぜったいに失敗しない外科医」はいないとしても、「あまり失敗しない外科医」と「失敗しやすい外科医」がいるという研究報告があります。

今回は、外科医と合併症との関係についての興味深い論文を紹介します。

外科医は手術後の合併症のリスク因子となるか?

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Individual surgeon is an independent risk factor for leak after double-stapled colorectal anastomosis: An institutional analysis of 800 patients. Surgery. 2017 Nov;162(5):1006-1016. doi: 10.1016/j.surg.2017.05.023. Epub 2017 Jul 21.

【対象と方法】

スペインの大学病院において、ある手術の方法について、合併症の危険因子について解析が行われました。

対象となった手術はダブルステープリング法といい、大腸(左側の結腸や直腸)の部分切除後に、自動縫合器という器械を使って腸をつなぐ方法です。

この手術の最もいやな合併症の一つに縫合不全(ほうごうふぜん)があります。これは、腸のつないだところがもれるという合併症です。

この縫合不全がおこると、再手術が必要となったり、入院が長期化したり、またときには重症化して死亡につながることもあります。

1993年から2009年までの間に、800人の大腸がん患者に対し、病院に所属する7人の外科医によってこの手術が行われていました。執刀した7人は全員とも大腸の手術を専門とする経験豊富な外科医であり、手術は統一された手順にしたがって行われました。

手術後に縫合不全がおこった症例とおこらなかった症例について調査し、それぞれ執刀した外科医の影響も含めて危険因子を調べました。

【結果】

さて気になる結果ですが、全体で縫合不全は49人(6.1%)にみられました。

縫合不全をおこした患者では、死亡率が16%まで増加していました(縫合不全のない患者では2%)。

執刀した7人の外科医別に縫合不全がおこる率を調べたところ、かなり差があることが分りました。例えば、外科医Cが手術した患者さんでは、縫合不全は1.2%(85人中1人)と少ないのですが、外科医Gでは12%(133人中16人)、外科医Dでは15.7%(51人中8人)と多くなっていました(下図)。

執刀患者数と縫合不全

さらに多変量解析(複数の互いに関連する変数を同時に分析する統計分析手法)の結果、腫瘍の部位(直腸)、性別(男性)、術前の腸閉塞、喫煙、糖尿病、輸血に加え、特定の外科医が縫合不全のリスクを高める最も重要な因子となりました。

例えば、外科医Cが手術した場合に比べ、外科医Gが手術すると縫合不全のリスクが7.8倍となり、さらに外科医Dが手術するとリスクが13.5倍にも跳ね上がっていました

【結論】

これらの結果より、ダブルステープリング法では、術者が誰かによって縫合不全のリスクが大きく異なると結論づけています。

ダブルステープリング法は器械を使って腸をつなぐ手術なので、誰がやってもあまり結果に差が出ることはないと思われるかもしれません。

しかし、どの外科医が手術をするかによって、明らかに縫合不全のリスクが異なるのです。

では外科医によって手術の結果に大きな差がでるのはなぜでしょうか?

腕のいい外科医の条件とは?

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合併症の少ない腕のいい外科医に共通する要因について調べてみました。

1.外科医の経験

まず、手術の結果を左右する重要な因子は、外科医の経験です。

これまでの多くの研究によると、外科医として働いている年数が長いほど、あるいは手術をした例数が多いほど、手術の結果が良い(例えば、合併症が少ない)ことが示されています。

The influence of volume and experience on individual surgical performance: a systematic review. Ann Surg. 2015 Apr;261(4):642-7. doi: 10.1097/SLA.0000000000000852.

2.外科医の専門性

さらに、手術の結果に影響をあたえる因子として経験以上に重要なのが、外科医の専門性の高さであるといわれています。

これは、ある分野の手術を専門に行っている外科医の方が、色々な手術を行っている外科医よりも、その専門分野の手術に関しての治療結果が良いということです。

Effect of surgeon trainingspecialization, and experience on outcomes for cancer surgery: a systematic review of the literature. Ann Surg Oncol. 2009 Jul;16(7):1799-808. doi: 10.1245/s10434-009-0467-8. Epub 2009 May 15.

たとえば、大腸がんの手術を受ける場合、大腸がんの手術ばかりをしている外科医に執刀してもらうのがベストであるといえます。

しかし、(直接聞く以外に)外科医が執刀してきた手術の内容を知ることはできません。では、外科医の専門性についてはどうやったら知ることができるのでしょうか?

ひとつには専門医の資格があります。

ある研究によると、アメリカの外科専門医制度(American Board of Surgery)の資格を取得している外科医の方が、取得していない一般外科医よりも大腸切除術の術後合併症と死亡率が有意に低いという結果でした。

Patient outcomes for segmental colon resection according to surgeon’straining, certification, and experience. Surgery. 2002 Oct;132(4):663-70; discussion 670-2.

日本においても、一般外科では日本外科学会専門医(指導医)、消化器外科では消化器外科専門医(指導医)、食道外科では食道外科専門医、肝胆膵外科では肝胆膵外科高度技能専門医(指導医)、内視鏡外科では内視鏡外科技術認定医などがあります。

専門医の資格を取るためには、学会が認定した施設(病院)で、指導医の指導のもとに一定数の症例(手術例数)を経験する必要があります。

したがって、これらの専門医の資格を持っているかどうかも、合併症が少ない腕のいい外科医を選ぶさいの一つの基準になると思います。

まとめ

「ゼッタイに失敗しない外科医」はいないと思いますが、「あまり失敗しない外科医」はいます

合併症が少ない、いわゆる腕のいい術者は、「経験豊富で専門性の高い外科医」であるという研究結果でした。

患者さんが自ら執刀医を選ぶことは難しいのですが、命にかかわる大きな手術の場合には、このような視点から外科医を観察することも必要かもしれません。

 


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