手術 膵臓がん

切除不能の膵臓がんに対するコンバージョン手術が予後を改善

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膵臓がんの7~8割は、診断された時点で局所進行(まわりの主要な血管へ浸潤)または遠くの臓器やリンパ節への転移のため、切除ができない状態(切除不能膵がん)です。

このような切除不能膵がんに対しては、全身薬物療法(おもに抗がん剤)や放射線治療が行われてきましたが、多くの場合、短期間の延命効果しかありませんでした。

ところが、最近ではナブパクリタキセル(アブラキサン)+ゲムシタビン(ジェムザール)併用療法やFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法といったより効果の高い抗がん剤治療が導入されたため、「切除不能」であったがんが「切除可能」になるケースもでてきました。

このように、当初の治療方針が変わって行う手術のことをコンバージョン手術と呼びます。

今回、日本から切除不能膵がんに対するコンバージョン手術の成績(予後)についての報告がありましたので、紹介します。

コンバージョン手術とは

いったんは切除不能と診断されたがんに対して、治療の過程で方針を変更して(根治切除を意図して)行う手術のこと

一般的に、膵臓がんが主要な血管を巻き込んでいたり、他のはなれた臓器に転移している状態の場合、手術による切除の適応とはなりません(切除不能といいます)。

このような切除不能膵がんに対しては、ほとんどの患者さんで全身化学療法(あるいは化学療法+放射線治療)が行われますが、根治(がんが完全に治ること)を目指すものではなく、がんの進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることが目的でした。

しかし、最近ではより効果の高い抗がん剤が導入され、がんのサイズが小さくなって血管から離れたり、転移が消えたりして、結果的に切除手術が可能となる症例がでてきました。

このように、当初は切除手術が不可能だったものが、可能になって行う手術をコンバージョン手術(conversion surgery)といいます。つまり、もともとは根治手術の予定でなかったのが、方針を転換(コンバージョン)して手術を行うという意味です。

がんが完全に切除できれば、さらなる生存期間の延長(あるいは根治)が期待できます。

切除不能膵がんに対するコンバージョン手術の有用性

Clinical usefulness of conversion surgery for unresectable pancreatic cancer diagnosed on multidetector computed tomography imaging: Results from a multicenter observational cohort study by the Hokkaido Pancreatic Cancer Study Group (HOPS UR-01).  2019 Jul 9;3(5):523-533. doi: 10.1002/ags3.12272. eCollection 2019 Sep.

本研究(HOPS UR-01)は、北海道膵癌研究グループによる多施設研究の247人の膵臓がん患者のうち、切除不能と診断された66人の膵がん患者(平均年齢67歳)を対象としました。

切除不能の理由は、局所進行が42人、転移性が24人でした。

転移は、肝臓が13人、腹膜が10人(少量の腹水あり)、肺が1人、および骨が1人に疑われました。

化学療法が44人、化学放射線療法が17人に開始されました。うち23人は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法などの新しい抗がん剤治療を受けていました。

■ 最終的に、12人(局所進行が10人、転移性が2人)にコンバージョン手術が施行されました(手術までの治療期間10.3ヶ月(中央値))。

■ 11人(91.6%)では病理学的にR0(顕微鏡検査でがんの取り残しがない状態)でした。

■ 生存期間(中央値)は、コンバージョン手術をうけた患者が44.1ヶ月であり、受けていない患者の14.5ヶ月と比較して有意に延長していました(P<0.0001)

■ コンバージョン手術は、生存期間延長に関わる独立した予後因子でした(ハザード比、0.078)。

 

以上の結果より、切除不能膵がんであっても、抗がん剤などの治療に反応し、コンバージョン手術が可能となれば生存期間が延長する可能性があると結論づけています。

まとめ

膵臓がんのおよそ8割は切除不能といわれています。

切除不能膵がんであっても、治療に対する反応によってはコンバージョン手術にいたる症例があり、長期生存のチャンスもでてくるという結果でした。

最近の新たな抗がん剤治療(ゲムシタビン+ナブパクリタキセルやFOLFIRINOX)の導入によって、今後はますますコンバージョン手術が可能となる患者さんが増えることが期待されます

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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