がん(ステージ4)に対する新たなケトン食(低糖質ダイエット)の試み:国内での臨床研究データ
糖質制限はがんに効くのか?
がんに対する「糖質制限食」あるいは「ケトン食(ケトジェニックダイエット)」については、賛否両論です。
「がん患者は糖質制限したほうがいい」という意見と、「がん患者に糖質制限は意味がない(あるいは危険)」という意見があります。
私は、「糖質制限食によってがんが縮小したり、がん患者さんの生存期間を延長するといった科学的根拠(エビデンス)はがない」という事実を踏まえた上で、「(ゆるい)糖質制限は、一部のがん患者さんにメリットがある」という意見です。
今回、日本から新しいケトン食(ケトジェニックダイエット)の臨床試験(症例集積研究)のデータが報告されました。
ランダム化比較試験のような信頼できるエビデンスとは言えませんが、がんに対するケトン食の妥当性や安全性を示すデータとしては貴重だと思います。
進行がんに対する新たなケトン食の有望な結果
Promising Effect of a New Ketogenic Diet Regimen in Patients With Advanced Cancer. Nutrients. 2020 May 19;12(5):E1473. doi: 10.3390/nu12051473.
2020年の5月に栄養学の国際誌Nutrientsに報告された、大阪大学での臨床研究(症例集積研究)です。
55人の進行がん(ステージIV)患者(身体機能が保たれており、糖尿病がなく、経口摂取が可能な人)を対象としました。
がんの種類は、大腸がん(8人)、非小細胞肺がん(6人)、乳がん(5人)、膵臓がん(4人)、頭頸部がん(3人)、骨軟部肉腫(3人)などでした。
33人(89%)が抗がん剤治療、13人(35%)が放射線治療、26人(70%)が外科的治療(手術)を受けていました。
最終的に、3ヶ月間のケトン食を続けた37人(平均年齢55歳、男性15・女性22名)が解析対象となりました。
ケトン食
この研究では、新しいケトン食の方法として、以下のようなプロトコールを定めました。
- 最初の1週目:糖質を10g/日(糖質10g、脂質140g、タンパク質60g)に制限
- 2週目から3ヶ月:糖質を20g/日(糖質20g、脂質120-140g、タンパク質70g)に制限
- その後:糖質を30g/日(10g/一食)に制限
標的となる腫瘍のサイズはPET-CT検査上にて評価しました。
結果
■ 食事による副作用(有害事象)は認められなかった。
■ (試験後3ヶ月間にわたって)ケトン体濃度は有意に上昇し、血糖値および血清インスリンのレベルは有意に抑制されていた。
■ 3ヶ月の時点で、5人で、PET-CT検査上、部分奏効(PR:標的病変の30%以上の縮小)が得られた。
■ 1年の時点で、3人に完全奏効(CR:腫瘍が完全に消失)、7人に部分奏効(PR:標的病変の30%以上の縮小)が得られた。
■ 生存期間の中央値は32.2ヶ月であった(最長80.1ヶ月)。
■ 3年生存率は44.5%であった。
■ 3ヶ月の時点で血清のアルブミン、血糖値、CRP(炎症のマーカー)によるグループ分けを行ったところ、血清アルブミン値が高い(4.0 g/dL以上)グループ、血糖値が低い(90 mg/dL以下)グループ、およびCRPが低い(0.5 mg/dL以下)グループで有意に生存期間が延長していた。
以上の結果より、ケトン食は進行がん(ステージ4)患者において、治療のサポートとして有望であると結論づけています。
まとめ
今回、日本からケトン食の臨床試験の結果を紹介しました。
これまでのケトン食の問題点として、食事制限が厳しすぎて続けられない(あるいは、生活の質が著しく低下する)ことがありました。
このケトン食メニューでは、きびしい糖質制限は実質的に最初の1週間のみであり、その後は少しずつ糖質の制限を緩和しています。この工夫がよいのかもしれません。
もちろん、この研究では、ケトン食だけでなく、抗がん剤(分子標的薬をふくめ)などの治療も同時に受けていたわけですので、食事だけの効果ではありません。
また、著者が述べているように、対象として様々ながん種の患者が含まれていることより、この研究自体に限界があります。
とはいえ、糖質制限ががん治療のサポートとして有効であることを示すデータであることは確かです。
今後、ランダム化比較試験などでケトン食の有効性が証明されることを期待したいと思います。
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