膵臓がんを疑う症状と危険因子について:早期発見の手がかりとして

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膵臓がんの患者は年々増えており、日本における死亡者数は2013年には年間3万人を突破しました。

他のほとんどのがんの治療成績がよくなっている一方で、膵臓がん患者の5年生存率(治療開始から5年後に生存している人の割合)は未だ10%未満のままであり、「難治がん(治らないがん)」として君臨しつづけています。

これは、膵臓がんの特徴として、症状がでにくいためにかなり進行した状態でみつかることが原因と考えられています。実際に、約7~8割の患者さんは外科的に切除手術ができないほど進行した状態で見つかります。

したがって、膵臓がんの治療成績を上げるためには、膵臓がんの危険因子と初期の症状を把握し、できるだけ早い段階でがんを発見することがもっとも重要です。

今回は、膵臓がんを早期に発見するためにどうすればよいかについてお話しします。

膵臓がんを疑う症状や検査所見

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症状

膵臓がんを疑うおもな症状としては、お腹(多くは胃のあたり)の痛み、背中や腰の痛み、黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる、皮膚のかゆみを伴うこともある)、体重減少、消化不良などがあります。

これらの症状は、膵臓がんだけにみられる症状ではありませんが、たとえ軽くても膵臓がんの可能性がありますので、専門の医療機関(できれば消化器内科、肝胆膵(かんたんすい)内科などがある総合病院)を受診しましょう。

「ちょっと胃の調子が悪いだけ・・」とか、「最近つかれぎみだから・・・」と思いこみ、市販の胃薬や痛み止めで様子をみたり、いよいよ悪くなるまで我慢する方もおられますが、膵臓がんを放置しないためにもできるだけ早く受診しましょう。

また症状が無いからと言って安心できません。なぜならば一部(約15%)のすい臓がん患者さんには症状がないこともあるからです。特に早期の膵臓がんでは無症状のことも多いといわれています。

ですので、腹部超音波検査をふくめた健康診断(人間ドック)の定期的な受診が欠かせません。

検査所見

健康診断や人間ドックで受けた腹部超音波(エコー)検査で膵管(膵液の流れる管)の拡張が見つかった場合、あるいは血液検査で血中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇がみられた場合、膵臓がんの早期診断の手がかりとなることもありますので詳しい検査を受けましょう。

膵臓がんの危険因子

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膵臓がんを早期に発見するためには、このがんを発症する危険因子(リスク)を把握し、リスクの高い人は積極的に検査を受けることが必要です。

ではどういう人が膵臓がんになりやすいのでしょうか?

膵臓がんの危険因子(関係が深い病気や生活習慣)として、膵臓がんの家族歴(家族に膵臓がんの人がいること)、糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMNというふくろ状の腫瘍)、肥満、喫煙、大量飲酒などがあります(下表)。

 

膵臓がんの危険因子

家族歴

膵がん

 

遺伝性膵がん症候群

合併疾患

糖尿病

 

慢性膵炎

 

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

 

膵囊胞(すいのうほう)

 

肥満

嗜好

喫煙

 

大量飲酒

 これらのうち、とくに重要と考えられる3つの因子(家族歴、糖尿病、膵囊胞(のうほう))について少し詳しく説明します。

家族歴

研究によると、膵臓がんの5~10%は親から子へ遺伝によって発症すると考えられており、これを「家族性(あるいは遺伝性)膵がん」といいます。

厳密には、「親子または兄弟姉妹に2人以上の膵がん患者さんのいる家系の方に発症する膵がん」と定義されています。

海外からの報告によると、親子・兄弟姉妹に膵臓がんの患者さんが2人いる場合にはリスクが6倍以上になるとのことですので、このような方は膵臓がんの検査を受けることがすすめられます。

現在、日本においても膵臓がんの危険因子としての家族歴の重要性が認識され、日本膵臓学会による家族性膵がん登録制度が開始となっています。ご興味のある方はウェブをご覧ください。

糖尿病

一般的に、糖尿病の患者さんは、膵臓がんを発症するリスクが約2倍になると言われています。

また多くの研究によると、膵臓がんと診断された患者のうち25~50%が、診断の1~3年以内に糖尿病を発症していることがわかっています。

したがって、糖尿病患者で2年未満の新規発症例、体重減少や血糖コントロールの悪化が見られた症例、喫煙その他の危険因子を有する症例、また脂質異常症の既往がある症例に対しては、膵臓がんを疑って積極的な検査を行うべきであるとされています。

キーワードは、「最近、糖尿病といわれた」と「最近、糖尿病が急に悪化した」患者さんです

膵囊胞(のうほう)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

膵囊胞(のうほう)IPMN(膵臓にできるふくろ状の特殊な腫瘍)は、膵臓がんの前がん病変、あるいは膵臓がんを発見する手がかりとして知られています。これらの病変を指摘された場合、慎重な経過観察がすすめられています。

例えば、IPMNの約20~30%ではそれ自体ががんに進行することがあり、また5~10%ではIPMNとは別のはなれた膵臓にがんが合併することがあります。

IPMNは良性から悪性まで幅広い悪性度の腫瘍で、ある程度進行するとそれ自体で手術の適応になりますが、小さくて良性と思われるIPMNにも膵臓がんが合併することがあります

したがって、IPMNがある人は膵臓がんに対する定期的な検査(例えば半年ごとのCTやMR検査)を続ける必要があるといわれています。

まとめ

膵臓がんを疑う症状として、お腹(多くは胃のあたり)の痛み、背中や腰の痛み、黄疸、体重減少、消化不良などがあります。一部(約15%)の患者さんには症状がないこともあるので注意が必要です。

超音波検査での膵管の拡張や、高アミラーゼ血症は膵臓がんのきっかけとなることがあります。

膵臓がんの危険因子として、膵臓がんの家族歴(親や兄弟姉妹に膵臓がんの人がいること)、糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫(IPMNという、のうほう性(ふくろ状)の腫瘍)、肥満、喫煙、大量飲酒などがあります。

これらの膵臓がんの危険因子が複数(2つ以上)ある場合には、膵臓がんになる危険性が高いため、専門機関において検査を受けることがすすめられています。

 

参考文献

日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会(編):科学的根拠に基づく膵癌診診療ガイドライン2013年版、金原出版、東京

佐藤典宏, 水元一博, 田中雅夫. 【膵臓症候群(第2版)-その他の膵臓疾患を含めて-】 膵腫瘍 膵癌 家族性膵癌. 日本臨床. 2011;別冊:322-6.

佐藤 典宏, 山口 幸二. 【家族性膵癌:これからの膵癌診療におけるキーワード】 日本における家族性膵癌. 胆と膵. 2013;34:561-3.

佐藤 典宏, 山口 幸二. 【生活習慣病と胆・膵疾患】 膵癌危険因子としての糖尿病. 胆と膵. 2012;33:1267-70.

佐藤 典宏, 山口 幸二. 【外科医必読 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のすべて】 IPMN由来浸潤癌,IPMN併存膵癌の定義・頻度・特徴. 外科. 2013;75:129-34.

佐藤 典宏, 山口 幸二. 【IPMN/MCN診療の転換期-日本の成績が示すものは-】 IPMN 悪性度についての新しい基準 画像診断におけるHigh-risk stigmataとworrisome features. 肝・胆・膵. 2013;67:639-43.


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