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消化器がんに対する腹腔鏡(ふくくうきょう)手術のメリット、デメリットとは?

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がんに対する治療の基本は、手術、抗がん剤(化学療法)、放射線治療のいわゆる三大療法ですが、なかでも手術による切除が最も根治性(完全に治癒する可能性)の高い治療法です。

しかし、従来の大きな切開(傷)による開腹手術は、体にとって負担が大きく、回復や社会復帰に時間がかかることが問題となります。また、術後の傷の痛みや後遺症が持続する患者さんも少なからずおられます。

この問題を解決するため、お腹に小さな穴を開け、ここからカメラや器械を入れて手術する方法が開発されました。これが、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術です

日本においても、1990年頃より腹腔鏡手術が導入され、胆石症や良性疾患に対する手術として普及しました。その後、徐々にがんなど悪性疾患にも応用されるようになり、最近では大腸がんや早期の胃がんに対しては腹腔鏡手術が標準の手術方法になりつつあります

お腹を切開する従来の開腹手術に比べ、穴から行う腹腔鏡手術のほうが患者さんにとってはメリットが大きいような気がします。しかし、実際にはどうなのでしょうか?

今回は消化器外科医の立場から、消化器がんに対する腹腔鏡手術のメリットとデメリットについて解説します。

腹腔鏡手術とは?

 腹腔鏡手術とは、どんな手術でしょうか?簡単に手順を解説します。

まず、お腹に5mmから1cm程度の穴を開け、ここから炭酸ガスを注入してお腹をドーム状にふくらませ、腹腔鏡というカメラをお腹のなかに挿入します。お腹の中の映像はモニターに映し出されます。

一般的に、手術は術者(執刀医)、助手、およびカメラを担当する医師で行われます。全員がカメラの映像をモニターで見ながら手術をすすめます。

次に、鉗子(かんし)や電気メスなどの切開装置などの手術器具をお腹の中に挿入するための穴を開けます。穴の数は、手術術式や病変の部位や程度によって異なりますが、一般的に全部で5個程度になります。

最近では、さらに体への負担を減らす目的で、穴の数を減らして行う減孔式(げんこうしき)腹腔鏡手術や、穴が1か所の単孔式(たんこうしき)腹腔鏡手術も行われるようになってきましたが、手術自体が難しくまだ一般的ではありません。

切除した臓器は穴から体外に取り出しますが、切除した臓器が大きい場合には切開を延長して大きくする必要があります。

胃や大腸の手術では、病変部の切除後につなぎなおし(再建といいます)が必要となります。腹腔鏡手術の場合、再建は自動吻合器(ふんごうき)という器械を使ってお腹の中で行う場合もありますし、少し大きめの切開創(傷)からお腹の外に引き出してから体外で行う場合もあります。

消化器がんに対する腹腔鏡手術の現状

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現在、多くの消化器がんの手術が腹腔鏡によって行われており、全国的に症例数は増加傾向にあります。

例えば、大腸がん、胃がん、食道がん(胸腔鏡、あるいは胸腔鏡+腹腔鏡による手術)、肝臓がん、膵腫瘍(良性または低悪性度病変)などが対象となります。

なかでも、大腸がんや胃がん(早期のもの)に対する腹腔鏡手術の数は年々増加しており、最近では従来の開腹手術よりも多く選択されるようになってきました

また、肝臓やすい臓の腫瘍に対しても腹腔鏡手術が適応となり、徐々に手術件数が増えてきています。しかしながら肝胆膵領域の腹腔鏡手術は難易度が高いため、限られた専門施設でしか行われていません。

腹腔鏡手術の適応は、がんの部位(臓器)および進行の程度(ステージ)によって異なります。一般的には進行がんに対してはあまり行われません。また、患者さんの全身状態や腹部の手術歴(過去にお腹の手術をうけたかどうか)なども考慮されます。

また施設(病院)や術者によっても腹腔鏡手術の適応や考え方は異なります。もし、腹腔鏡手術を強く希望される場合には、その旨を主治医に伝え、手術の方法についてよく相談することをおすすめします。

腹腔鏡手術のメリット 

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傷が小さく、美容面ですぐれている

腹腔鏡手術の最大のメリットは、傷が小さく、美容面ですぐれていることです。特に、5ミリ程度の穴は、しばらくするとほとんど目立たなくなります。

 ■痛みが少ない傾向がある

傷が小さいため、開腹手術と比べて痛みが少ない傾向にあります(痛みが変らない、あるいは強いとする報告もあります)。

 ■入院期間が短く、早く社会復帰できる

多くの比較研究では、開腹手術よりも術後の回復が早く、入院期間が短い傾向にあります。一般的に、腹腔鏡手術の入院期間は、胃がんの場合は1~2週間程度、大腸がんでは1~2週間程度です。

 ■出血量が少ない傾向がある

開腹手術に比べ、平均的に出血量が少ない傾向にあります。

 ■拡大した視野で繊細な手術ができる

開腹手術では確認が難しい小さな血管、神経などもカメラを通して拡大してみえるため、例えばリンパ節の切除などに関しては、より精度の高い手術ができます。

 ■術後の癒着(ゆちゃく)が少ない

腹腔鏡手術では、腸管が外気に触れないため、癒着(腸管同士あるいは腸管とお腹の壁などがひっつくこと)が少ないと言われています。これに伴い、術後の腸閉塞(ちょうへいそく)の発症が少ない傾向にあります。

腹腔鏡手術のデメリット

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 ■特殊な機材・道具を必要とする(コストが高くなる)

腹腔鏡専用の手術道具が必要となり、多くの場合、開腹手術よりもコストが高くなります。これに伴い、手術点数(値段)も高くなります。

 ■技術的に難しく、手術時間が長くなる傾向がある

術者の動作が制限されるため、開腹手術と比べて技術的に難しくなります。このため、手術時間が長くなる傾向にあります。また手術を習熟するまでに時間がかかり、腹腔鏡手術のための特別なトレーニングが必要となります。

 ■臓器損傷など特殊な合併症の可能性がある

開腹手術と違って直接手で触ることができないため、過度の力が臓器にかかることがあります。

またモニターに映る部分しか見えないので、カメラの視野外(見えてないところ)で思わぬ臓器の損傷などがおこる可能性もあります。

 ■緊急の事態への対応が遅れる可能性がある

大量の出血など予期せぬ事態が起こった場合、開腹手術に比べて対処が困難なことが多く、途中で開腹手術へ変更することもあります。

開腹手術への変更が遅れると、大量出血や血圧の低下につながる危険性もあります。

 ■がんの手術として適切かどうかの評価が定まっていない

がんの手術の基本は、腫瘍の部分だけでなく、まわりのリンパ節を一緒に切除することです。腹腔鏡手術ではリンパ節を十分に切除できず、がんの取り残しや再発が多いのではないかといった意見がありました。

 最近の腹腔鏡手術と開腹手術を比較した研究では、再発率などがんの治療成績に差がないことが分ってきました。しかし、これは多くの手術を行っている専門施設からの報告であり、一般の病院におけるレベルとは差がある可能性も考えられます。

いずれにしても、長期にわたって生存率などを比較した研究結果はまだ報告が少ないため、今後、さらなる研究によって「腹腔鏡手術ががんに対する治療として適切かどうか」が明らかになることが期待されています

 

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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