腫瘍マーカーの種類とがんの診断・治療・経過観察における役割について

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腫瘍マーカーとは、ごく簡単にいうと、血液中の特殊なタンパク質などの濃度で、がんの存在や広がり(あるいは再発)などが予測できる検査のことです。がんの種類によってAFP、CEA、CA19-9、CA125、SCC、PSAなどいろいろな腫瘍マーカーが陽性になります。

腫瘍マーカーは、がんの検診、診断、あるいは治療後に測定されています。みなさんの中にも腫瘍マーカー検査を受けた人もいらっしゃると思います。また、最近ではがんの分子レベルでの異常に基づいた新たな腫瘍マーカー(例、抗p53自己抗体)も開発されています。

さて、腫瘍マーカーにはどのような種類があるのでしょうか?また、実際に腫瘍マーカー検査はどのように患者さんの役に立つのでしょうか?消化器外科医の立場から解説します。

腫瘍マーカーとは?

腫瘍マーカーとは、がん細胞自体がたくさん作って血液の中に分泌していたり、がんに対する体の反応として血液中で上昇している物質(タンパク質)のことです。

AFPのようにある特定の臓器のがん(肝臓がん)でだけ上昇するものもありますが、CEAのように複数のがん(例えば、胃がん、大腸がんと膵臓がん)で陽性になるマーカーもあります。

ただし、すべてのがん細胞がなんらかの腫瘍マーカーを作っている訳ではありません。また、炎症など特殊な状況では正常細胞からも出てくることがあります。このため、腫瘍マーカーはあくまでもがん診断や治療のモニタリングの補助的な検査として使用されています。

腫瘍マーカーの役割

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1.がんの検診(スクリーニング)

がん検診やがんドックでは、いくつかの腫瘍マーカーを組み合わせて検査します。腫瘍マーカーが上昇している場合は、それぞれの疑われる臓器を調べることになります

ただ、前立腺がんの検査で測定するPSAを除き、(後で詳しく述べますが)ほとんどの腫瘍マーカーは偽陰性(ぎいんせい)や偽陽性(ぎいんせい)といった問題があり、がん(特に早期がん)のスクリーニングには向いていません。

とはいえ、検診での腫瘍マーカーの上昇がきっかけで、がんが見つかった患者さんがいるのも事実です

2.がんの診断補助

がんが疑われる場合に、他の画像検査などと合わせて腫瘍マーカー検査が行われます。上昇している場合には、がん診断の補助となります

例えば、画像検査である臓器に腫瘤(しこり)があり、同時に腫瘍マーカーが陽性の場合には良性の腫瘍よりもがんの可能性が高くなります。

また、腫瘍マーカーが非常に高値の場合には、がんが転移していたり、思った以上に広がっていることを反映している可能性もあります。

3.治療効果の判定

腫瘍マーカーが上昇している場合には、治療の効果判定に使用することがあります。例えば、術前に上昇していた腫瘍マーカーが、切除手術後に正常値まで低下した場合、一旦はがんが完全に体から除去されたと考えることができます。

同様に、抗がん剤や放射線治療の効果判定の補助として使用されることもあります。例えば、抗がん剤治療によって腫瘍マーカーが下がっていれば効果があったと判定し、逆に上昇し続ける場合には効果がなかった(あるいは不十分)と判定する助けになります(もちろんCTなど他の検査も行って総合的に判断します)。

4.がん再発のスクリーニング

腫瘍マーカーは治療の判定だけでなく、その後の経過観察期間中における再発のスクリーニング検査としても使われています。

例えば、治療後に一旦低下していた腫瘍マーカーが再び上昇してきた場合、がんの再発や転移を疑って他の検査を行うことがあります

ちなみに、腫瘍マーカーが治療前には上昇していなかったがんでも、進行するにつれて上昇することもあります。

腫瘍マーカーの問題点・注意点

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偽陰性(ぎいんせい)の問題

ほとんどの腫瘍マーカーは、がんが早期の段階では上昇しないことが多いため、早期がんを検出するためのスクリーニングとしてはあまり役に立ちません。このようにがんが存在するのに陰性になることを偽陰性(ぎいんせい)といいます。

つまり、がんドックやがん検診の腫瘍マーカー検査で陰性だったとしても、「がんがない」とはいえないのです。

偽陽性(ぎようせい)の問題

逆に、腫瘍マーカーはがんがなくても上昇することがあります(これを偽陽性(ぎようせい)といいます)。腫瘍マーカーの中には良性の病気や炎症で上昇するものや、全く病気がなくても上昇するものもあります。例えば、有名なCEAという腫瘍マーカーは、タバコを吸う人で上昇することがわかっています。

つまり、腫瘍マーカーが高いだけで「がんがある」とはいえないのです。中には腫瘍マーカーが高いのに各種検査でがんが見つからず、「がんがどこかに隠れているのでは?」と不安なまま日常生活を送っている人もいます。

お金の問題

一般的に、人間ドックや検診目的での腫瘍マーカー検査には保険が適応されませんので、自費になります。とくに複数の腫瘍マーカー検査をうけるとかなり高額になります。

腫瘍マーカーの種類、対象となるがん、および陽性率

以下に、代表的な腫瘍マーカーについて、対象となるがんとおおよその陽性率、および偽陽性を示す良性疾患(主なもの)についてまとめます。

腫瘍マーカー 対象となるがん 陽性率 偽陽性を示す良性疾患
AFP(αフェトプロテイン) 肝細胞がん 75% 慢性肝炎・肝硬変
PIVKA II 肝細胞がん 60% 肝硬変
CEA

大腸がん

肺がん(腺癌)

甲状腺随様癌

65%

55%

80%

慢性肝炎・肝硬変・慢性膵炎・炎症性腸疾患
CA19-9

膵臓がん

胆道がん

大腸がん

90%

80%

40%

慢性膵炎・胆管炎・慢性肝炎・閉塞性黄疸
Span-1 

膵臓がん

胆道がん

80%

70%

肝硬変・慢性肝炎
CA50 

膵臓がん

胆道がん

80%

70%

慢性膵炎・慢性肝炎
DUPAN-2

膵臓がん

胆道がん

70%

65%

肝硬変・急性肝炎
エラスターゼ I  膵臓がん  70%  急性膵炎
NCC-ST439 

膵臓がん

胆道癌

乳がん 

60%

50%

35%

慢性肝炎・肝硬変・急性肝炎
CA15-3 乳がん 45%  肝硬変 
SLX 

肺腺がん

膵臓がん

胆道がん

45%

60%

40%

慢性膵炎・慢性肝炎 
CYFRA(シフラ) 

肺扁平上皮がん

肺腺がん

75%

55%

肺良性疾患・慢性肝炎・肝硬変
NSE

肺小細胞がん

神経芽細胞腫

70%

90%

脳血管障害、脳炎 
SCC抗原 

肺扁平上皮がん

子宮頸がん

60%

70%

皮膚疾患、肺炎、気管支炎 
CA125  卵巣がん 80%  子宮内膜症、囊胞腺腫 
PSA  前立腺がん 70%  前立腺肥大症 

この他、各種がん抗原に対する自己抗体も新たな腫瘍マーカーとして開発されつつあります。

例えば、食道がん、大腸がん、乳がんに対する腫瘍マーカーとして血中抗p53自己抗体が保険適応となっています。

このp53自己抗体は、従来の腫瘍マーカーに比べて陽性率は高くないものの、比較的早期のがんでも陽性率が高いのが特徴です。

すなわち、ステージI以下の早期大腸がんの場合、CEAの陽性率が5%以下であるのに対し、抗p53抗体の陽性率は30~40%と報告されています。

このような早期がんを検出できる腫瘍マーカーの開発が期待されています。

 

参考文献:臨床検査のガイドライン JSLM2012(日本臨床検査医学会)


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腫瘍マーカーの種類とがんの診断・治療・経過観察における役割について” に対して2件のコメントがあります。

  1. まりん より:

    記事を面白く拝見しています。
    腫瘍マーカーと腫瘍径はなんらかの関係はあるのでしょうか?
    例えば、腫瘍径が30ミリ程度と大きいのに、腫瘍マーカーが低値な場合、悪性度が高い(低分化)ことが示唆されたりはしませんか?
     腫瘍マーカーから推測されることを踏まえて、その数値の変化を追えるといいと思っております。徒らに不安にかられることは避けたいです。

    1. satonorihiro より:

      まりん様

      コメントありがとうございます。

      おっしゃるとおり、腫瘍マーカーの値は(癌細胞がその腫瘍マーカーを産生している場合には)がんの相対的な量を反映すると考えられますので、腫瘍径が大きいものや、転移をしているものでは高くなる傾向にあります。

      また、一部の腫瘍マーカーは低分化のがんでは低値になりますが、高分化のがんでも産生しないものがありますので、一概に「腫瘍マーカーが低値=低分化のがん」とは言えません。

      腫瘍マーカーはあくまで補助的なものですので、その数値だけでがんの広がりや悪性度を評価することはできないと思います。

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