転移を伴う進行性の肝臓癌(肝細胞がん)の自然退縮例:その頻度は?
我が国における肝臓がん(肝細胞がん)死亡者数は徐々に減少しつつあるものの、年間におよそ2万8千人もの人が死亡しています。
また、多くの肝細胞がん患者は進行した状態で発見されるため、根治することが難しく、分子標的薬のソラフェニブや肝動脈化学塞栓術(TACE)など治療の選択肢が限られてきます。このため、進行した肝細胞がんの生存率は未だに低いのが現状です。
一方で、まれではありますが、肝細胞がんの自然退縮例も報告されています。過去の臨床試験に基づいた計算では、肝細胞がんが自然退縮する頻度は0.4%と推定されています。
今回、転移を認めるステージ4の肝細胞がんの自然退縮の症例が報告されてましたので、その原因についての考察も含めて解説します。
肝細胞がんの自然退縮例
症例報告
症例は74歳の白人男性で、倦怠感、食欲不振、20キロもの体重減少を主訴に入院となりました。
既往歴として、高血圧、糖尿病、心筋梗塞などがありました。
腫瘍マーカーでは、(肝細胞がんのマーカーである)AFP(αフェトプロテイン)が>16,600 kU/lと非常に高値でした。B型およびC型肝炎のウイルス感染は陰性でした。
CTスキャンの結果、肝臓および肺、腹膜に多発する病変を認めました(下図)。
超音波を使った肝臓の腫瘍生検(組織の一部を採取する検査)では、悪性(がん)の診断であり、特殊な染色の結果、肝細胞由来(つまり、肝細胞がん)であることが示されました。
これらの検査の結果、多発する肝細胞がんの肺転移・腹膜転移と診断されました。
患者の一般状態が悪く、また積極的な治療を断ったため、かかりつけ医で支持医療(緩和医療)のみを行うことにしました。抗がん剤などは一切使用しませんでした。
その後、脳卒中を発症し、エナラプリル(ACE阻害剤、高血圧の薬)、フロセミド(利尿剤)、そしてサプリメントとしてクルクミンを開始していました。
6ヶ月後、外来にて経過観察のために検査を行ないました。
血液検査の結果、AFPは1,795 kU/lまで低下していました。またCTの結果、肝臓の腫瘍は著明に縮小し、また腹膜の結節(転移うがたい)も縮小していました(下図)。
1ヶ月後には、AFPがさらに1,252 kU/lまで低下していました。
肝細胞がんの自然退縮についての考察
この症例では、がんの治療をしてないにも関わらず、およそ6ヶ月間で肝細胞がん(および転移)が著明に縮小していました。
さて、このような肝細胞がんの自然退縮例は他にもあるのでしょうか?
過去の肝細胞がんの臨床試験において、プラセボ群など無治療のグループを調べたところ、なんと0.4%に自然退縮が認められたとのことです。
肝細胞がんの自然退縮の原因としては、①腫瘍の虚血(血が通わなくなること)、②全身の炎症反応、③免疫抑制剤の中止、④アルコール摂取の中止、⑤ハーブの摂取、などの可能性が考えられています。
今回の症例では、がんが自然に縮小する前に脳卒中を発症し、新しく2つの薬(ACE阻害剤とフロセミド)とクルクミンを開始していました。
フロセミド(利尿剤)ががんに効果があったという報告はないそうです。ところが、動物実験では、ACE阻害剤(血圧の薬)とクルクミンの組み合わせによって血管新生が抑えられ、肝細胞がんの成長が阻害されたという報告があるようです。ちなみにウコンの成分であるクルクミンに関しては、その強力な抗がん作用が注目されています。
したがって今回の症例では、(もちろん明確な理由は不明ですが)エナラプリルとクルクミンの組み合わせが、がんの自然退縮につながった可能性があるとしています。
いずれにしても、治療が難しい進行した肝細胞がんでも自然退縮があるという事実は、患者さんの希望になると思います。
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