がん患者さん(サバイバー)に運動が必要な理由とその実践法
がんになると、いろいろな原因によって運動不足になります。
治療の必要上どうしても運動ができない場合もあるでしょう、しかし、がんを治すためには運動し、筋肉を維持することが必要です。
今回は、がん患者さんに運動が必要な理由について解説します。
がん患者さんに運動が必要な理由
がん患者さんに運動が必要な理由をあげてみます。
- 運動するがん患者の方が予後が良い(再発が減る、生存期間が延長)
- 筋肉やせ(サルコペニア)を予防
- 筋肉から分泌される物質(マイオカイン)が抗がん作用を持つ
- 運動によってNK細胞などの免疫細胞が活性化
- カヘキシア(悪液質)を予防
このように、さまざまな理由があります。
いくつかについて詳しく解説します。
運動とがん患者の生存率
米国がん協会(American Cancer Society, ACS)の「がん生存者における栄養および身体活動のガイドライン(2012年)」によると、これまでの多くの大規模な研究において、適度な運動が、乳がん、大腸がん、前立腺がん、卵巣がん患者の再発リスクを減らし、生存期間を延ばすことが示されています。
例えば、乳がん患者についての最近のメタ解析(複数の研究の結果を統合し、分析したもの)によると、がん診断後の運動は、乳がん患者の再発率を24%減少し、乳がんによる死亡率を34%(全死亡率を41%)も減少することが分かりました。
大腸がんの生存者における少なくとも4つの大規模なコホート研究の結果によると、診断後に活発に運動をすると、がんの再発、大腸がんによる死亡、または全体の死亡率をそれぞれ50%も改善することが分かりました。
アメリカで行われた、2千人以上の早期乳がん患者を対象とした研究を紹介します。
手術などの治療が終わった乳がん患者さんについて、その時点でどの程度の運動をしているかについて調査し、約7年間にわたって生存期間を追跡ました。
その結果、最も活発に運動をした患者さんは、ほとんど運動をしなかった患者さんにくらべ、53%も死亡率が減少しました。
つまり、しっかりと運動する乳がん患者さんは、そうでない患者さんよりも2倍も長生きしたということです。
以上より、がん患者さんにとって毎日の適度な運動がとても大切であることが分ります。
サルコペニアとがん術後合併症、生存率との関係
サルコペニアとは?
サルコペニア(sarcopenia)とは、筋肉量および筋力が低下した状態のことで、加齢に伴うものや、がんなどの病気に伴っておこるものがあります。
これは、蓄えられた脂肪が減ってから筋肉が減っていく飢餓(きが)とは違います。
例えば、サルコペニアでは脂肪は減らずに筋肉だけが減っていくこともあり、「サルコペニア肥満」とも呼ばれます。
最近、このサルコペニアががん患者の術後合併症や予後(治療成績)と深く関わっていることが明らかとなり、注目を集めています。
サルコペニアは、タンパク質の消費が亢進し、筋肉が分解されることによっておこります。
がん患者にみられるサルコペニアには次のような原因があると考えられています。
●食事摂取量の減少による栄養不良
●がんによる慢性の炎症、代謝異常、臓器障害(臓器不全)
●手術などの侵襲(からだへの負担)
●抗がん剤などの治療に伴う食欲不振など
サルコペニアが多く見られるがんには、食道がん、胃がん、膵臓がんなどがあります。
例えば、膵臓がんの患者さんのおよそ65%にサルコペニアがあったと報告されています。
これまでの研究により、サルコペニア(あるいは肥満を伴うサルコペニア)がある患者では術後の合併症リスクが高くなり、また生存率が低下することが報告されています。
サルコペニアかどうかはどうやってわかる?
サルコペニアの診断には色々な基準が使われていますが、日常生活においては
「歩く速度がおそくなってきた」、
「階段が上がれなくなってきた、または手すりがないと上がれない」、
「ペットボトルのキャップを開けにくい」、
「米袋など、重いものを持ち上げられない」
などが判断の目安となります。
サルコペニアを防ぐには?
ではサルコペニアにならないためにはどうしたらいいのでしょうか?
これまでの研究により、以下の方法が有効であると言われています。
■ タンパク質や必須アミノ酸(特にロイシンまたはHMB)の補充
■ エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3系不飽和脂肪酸の摂取
■ 筋肉に負荷をかける運動(レジスタンス運動)
特に、欧米からホエイプロテインが年齢にともなうサルコペニアを防ぐのに有効であったという報告があります。
380名のサルコペニアを認める高齢者を対象とし、食事の度にホエイプロテイン(20 g)にロイシン、ビタミンDなどを加えたサプリメントを摂取するグループとプラセボ(偽薬)のグループに分け、13週後にサルコペニアについて評価しました。
その結果、ホエイプロテイン摂取グループではプラセボに比べて有意にサルコペニアが改善した(筋肉量が増加した)とのことです。
この試験は一般の高齢者を対象としたものですが、がん患者さんにも当てはまると思います。
サルコペニアは、がん患者さん(がんサバイバー)にみられる体重減少とも関連しています。くわしくはこちらの記事もどうぞ。
運動のすすめ
では、どの程度の運動が必要かをアメリカの様々な学会や協会がすすめているガイドラインから抜粋します。
成人がん患者(18歳から64歳まで)では、
「中ぐらい」の運動(下表)を週にすくなくとも150分間(2時間30分)
または、
「はげしい」運動(下表)を週にすくなくとも75分間(1時間15分)
することが望ましい、としています。
ちなみに「中ぐらい」の運動とは、運動しながら話すことはできるが、歌うことはできない程度、「はげしい」運動とは、止まって息をしないと2~3語しかしゃべれない程度の運動とのことです。
65歳以上の患者さんも、可能であれば同様な運動が望ましいが、慢性の病気によって制限がある場合には、長時間の運動は避けたほうがよいとなっています。
ちなみに、「中ぐらい」と「はげしい」運動の具体例を以下に紹介します。
「中ぐらい」の運動
- 社交ダンスとライン・ダンス
- サイクリング(平地または少しの上り坂がある場所)
- カヌー
- ガーデニング(庭そうじ、木の剪定)
- ボールを使ったスポーツ(野球、ソフトボール、バレーボール)
- テニス(ダブルス)
- 手動車椅子での移動
- 自転車のペダル踏み運動器(エアロバイクあるいはエルゴメーター)
- 早足歩き
- 水中エアロビクス
「はげしい」運動
- エアロビクスダンス
- サイクリング(時速10マイル(16キロメートル)以上)
- はげしいダンス
- きついガーデニング(土掘り、くわを使う)
- 上り坂のハイキング
- なわとび
- 武道(空手など)
- 競歩、ジョギング、またはランニング
- たくさん走るスポーツ(バスケットボール、ホッケー、サッカー)
- スイミング(早く、または何往復も)
- テニス(シングル)
以上です。
ガーデニングなどもあり、楽しく続けられそうなものも多いですね。
時間の目安としては、「中ぐらい」の運動なら、1日20~25分を毎日、「はげしい」運動なら、1日20~25分を2日に1回か、1日10~15分を毎日、といったところです。
サルコペニア防止のレジスタンス運動
レジスタンス運動のおすすめメニュー
■ダンベル運動
軽めのダンベルを手に持って、反動を使わずに10~20回程度左右に開閉したり、上げ下げしましょう。
■屈伸運動(スクワット)
軽く肩幅程度に足を開いて、呼吸を止めずにゆっくり行います。
膝を深く曲げた方が負荷がかかるため、慣れないうちは浅く曲げるところから始めましょう。
10~20回が目安ですが、楽にできるようになったら50~100回を目指しましょう。
■足上げ(もも上げ)運動
肩幅に足を開いて立ち、片足ずつゆっくり上げ下げします。ももを上げるときに息を吐きましょう。左右とも10~20回が目安です
腹筋も同時に鍛えることができます。
また椅子に座ったまま、足を浮かせてキープする方法でも行うことができます。
オフィスや、自宅でテレビを見ているときなどにもオススメです。
■壁腕立て伏せ
通常の床に手をついて行う腕立て伏せがきついと思う方にオススメ。
壁やベンチの背もたれなどに手をついて、二の腕を意識しながらゆっくり行います。最低20回を目標にしましょう。
以上のうち、自分ができるものを組み合わせ(例えばダンベル運動+スクワットなど)、毎日10分程度でいいので続けてみましょう。
レジスタンス運動の注意点
きついと感じた場合には負荷(重さ)や回数を減らしましょう。呼吸は途中で止めず、使っている筋肉を意識するようにしましょう。
スポーツジムでマシンを使って行う場合には、必ず専門のスタッフ(トレーナー)に相談し、安全なプログラム(メニュー)をつくってもらいましょう。
ちなみに、レジスタンス運動を行った直後にプロテインを飲むと、効率よく筋肉がつくとのことです。試してみてください!
スポーツジムに入会するメリット
運動を継続するのは結構大変です。
手っ取り早いのは、スポーツジムに通うことです。今までジムに行ったことがない人は、可能ならば思い切って入会してください。
ほとんどのスポーツジムでは、有酸素運動とレジスタンス運動のどちらもできますし、雨の日でも天気を気にせずに運動できる利点があります。
これまで運動習慣の全くなかったひとでも、専門のトレーナーに安全なエクササイズの方法を指導してもらえます。
また、お金を払っていることが強制力となり(行かないと損なので)、自分でやるよりも運動する動機付けが増えます。
さらに、気に入ったエアロビクスのプログラムや友達ができることでジムに通うこと自体が楽しい習慣となります。
このように、スポーツジムに入会することには様々なメリットがあります。
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