早期肺がんに対する手術は放射線治療(SBRT)に比べて死亡率が上昇:海外からの報告

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早期の非小細胞肺がん(NSCLC:肺腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)に対しては、肺切除手術が標準治療として長く行われてきました。

一方で、高齢の患者さんや、全身状態(とくに肺の機能)が悪くて手術がきびしい患者さんでは、手術に比べて侵襲性(体への負担)が少ない体幹部定位放射線治療(SBRT)が選択されるようになりました。

しかしながら、手術あるいはSBRTを比較した大規模な研究はほとんどなく、どちらがより安全で、生存期間が長いのかについては、まだ結論はでていません。

今回、海外から早期肺がんに対する手術とSBRTの治療後早期の死亡率を比較した研究が報告されました。

治療後早期の死亡率はSBRTより手術の方が高く、高齢になればなるほどその差は大きくなるという結果でした

体幹部定位放射線治療(SBRT)とは?

体幹部定位放射線治療(SBRT; stereotactic body radiotherapy)は、放射線を多方向から標的となる病変に集中して照射する治療法です。

がんだけに高い線量が当たるようにする方法で、「ピンポイント照射」ともいわれます。

従来の放射線治療よりも多い線量を、より少ない回数(4~10回)で照射できるため、短期間で高い効果が期待できる治療として注目されています。

また合併症が少なく、外科切除と比較して侵襲(からだへの負担)が少ないといわれています。

現在、SBRTは早期の肺がん、肝臓がん、および前立腺がんなどに行われています。

SBRTのことを詳しく知りたいかたは、大船中央病院(神奈川県)放射線治療センターの武田篤也先生の著書「世界一やさしいがん治療」を読むことをおすすめします。

早期非小細胞肺がんに対する手術および体幹部定位放射線治療(SBRT)の治療後早期の死亡率

Post-Treatment Mortality After Surgery and Stereotactic Body Radiotherapy for Early-Stage Non-Small-Cell Lung Cancer. J Clin Oncol. 2018 Mar 1;36(7):642-651. doi: 10.1200/JCO.2017.75.6536. Epub 2018 Jan 18.

【対象と方法】

National Cancer Database(米国立がんデータベース)に登録された患者のうち、早期肺がん(ステージcT1-T2a, N0, M0)に対して手術を受けた76,623人と、SBRTを受けた8,216人が対象となりました。

それぞれの治療後、30日以内の死亡率と90日以内の死亡率を調査しました。

【結果】

■ グループ全体の解析では、手術とSBRT後の死亡率は、30日以内がそれぞれ2.07%と0.73%、90日以内が3.59%と2.93%と、手術の方が有意に高い結果でした。
■ 傾向スコアマッチングによって、患者背景を調節したグループでの比較では、さらに死亡率の差が大きくなり、手術とSBRT後の死亡率は、30日以内がそれぞれ2.41%と0.79%、90日以内が4.23%と2.82%と、手術の方が有意に高い結果でした。
■ 手術とSBRT後の死亡率の差は、年齢とともに大きくなり30日以内の死亡率の差が、71~75歳で1.87%、76~80歳で2.80%、81歳以上で3.03%でした(下図)

早期肺がん手術SBRT死亡率

■ 手術とSBRT後の死亡率の差は、手術の程度が増加するにしたがって大きくなっており、30日以内の死亡率の差が、SBRTに比べて亜肺葉切除(縮小手術)で2.85倍、肺葉切除で3.65倍、肺全摘術で14.5倍でした。

【結論】

早期肺がんに対する手術とSBRT治療後の死亡率を比較したところ、30日以内、90日以内のいずれも手術の方が高いという結果でした。

とくに手術の程度(切除範囲)が大きいほど死亡率の差が大きくなっていました。

また、この死亡率の差は患者の年齢とともに増加し、70歳以上で最も大きくなっていました

まとめ

早期肺がんに対する手術とSBRT治療の長期予後(生存期間)の比較については、3年生存率においてSBRTの方がよい成績であったとする論文もあるものの、まだ結論が出ていません。

しかし、治療後早期の死亡率に関しては、手術よりもSBRTに軍配が上がりそうです

とくに、70歳以上の高齢患者さんにおいては、SBRTに比べて手術の死亡率が高くなるということです。

早期肺がんに対して手術あるいはSBRTのどちらかを選ぶ場合には、このような情報をもとに判断すべきであると思います。

 


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