野菜中心の低炭水化物(低糖質)食で大腸がんの生存率が改善:新たな食事療法のエビデンス
がんの食事療法については多くの議論があり、一定の見解が得られていません。
少なくとも、ランダム化比較試験などで証明されたエビデンスのある「がんに効く食事療法」はありません。
また医師の間にも、「食事療法はとても大事」という意見と、「食事なんか関係ないので、好きなものを何でも食べていい」という意見があります。
私は、がん患者さんには、ゆるい糖質制限食や野菜を多くとることをすすめてきました。
もちろん、「食事療法だけでがんが治る」といった極端な意見はつつしむべきだと思いますが、やはりがん患者さんにとって、食事はとても大切だと感じています。
今回、海外からの前向き研究によって、新たな食事療法(栄養療法)のエビデンスが追加されました。
この研究によると、植物性食品におきかえる低糖質(炭水化物)ダイエットによって、大腸がん患者の生存率が改善するという結果でした。
つまり、がん患者さんの食事療法として、糖質制限をする場合、肉はほどほどで、野菜を多めにとった食事パターンがベストなようです。
植物性食品中心の低炭水化物ダイエットと大腸がんの生存期間との関係:前向きコホート研究より
Low-Carbohydrate Diet Score and Macronutrient Intake in Relation to Survival After Colorectal Cancer Diagnosis. JNCI Cancer Spectr. 2018 Nov;2(4):pky077. doi: 10.1093/jncics/pky077. Epub 2019 Jan 28.
本研究では、ステージI~IIIの大腸がん患者1542人を対象として、がん診断から6ヶ月~4年後の間に、食事に関する詳細なアンケート調査を行いました。
その後、追跡調査を行い、死亡(大腸がんによる死亡、または全ての原因による死亡)を記録しました。
観察期間中(中央値9年間)に、817人が死亡しており、うち185人が大腸がんによる死亡でした。
大腸がん診断後の食事パターンを、高糖質(炭水化物)ダイエットと低糖質(炭水化物)ダイエットに分類し、さらに低糖質ダイエットを、
-
すべての低糖質(炭水化物)ダイエット(動物性・植物性食品関係なし)
-
動物性食品が豊富な低糖質(炭水化物)ダイエット(植物性食品はほどほどで、おもに動物性食品(肉など)から脂質とタンパク質を摂取)
-
植物性食品が豊富な低糖質(炭水化物)ダイエット(動物性食品はほどほどで、おもに植物性食品(野菜や豆類など)から脂質とタンパク質を摂取)
に分類し、生存期間との関係を調査しました。
結果を示します。
-
すべての低糖質(炭水化物)ダイエット(動物性・植物性食品関係なし)と生存率との間に有意な関係はみられませんでした。
-
動物性食品が豊富な低糖質(炭水化物)ダイエットは、大腸がんによる死亡率とは関係していなかったものの、全体の死亡率の約20%の増加を伴っていました。
-
植物性食品が豊富な低糖質(炭水化物)ダイエットは、大腸がんによる死亡率の約70%の減少、および全体の死亡率の約30%の減少を伴っていました。
-
糖質(炭水化物)の摂取量増加は、大腸がんによる死亡率の上昇を伴っていましたが、その相関は精白でんぷん(refined starches)および糖類(sugars)からの炭水化物に限られていました。
-
糖質(炭水化物)を植物性の脂質およびタンパク質に置き換えることは、大腸がんによる死亡率の低下につながっていました。
以上の結果より、植物性食品(野菜や豆類、くだもの等)が豊富な低糖質(炭水化物)ダイエットは、(転移を認めない)大腸がん患者の生存率を改善する可能性があると結論づけています。
まとめ
今回の研究結果からは、炭水化物(中でも精白穀物および砂糖などの糖類)の摂取量増加は、大腸がんによる死亡率を高めること、一方、動物性食品ではなく、植物性食品が豊富な低糖質(炭水化物)ダイエットは大腸がんによる死亡率を低下させることが示されました。
すなわち、糖質(白米や白パン、加糖飲料などの精製された炭水化物)を減らし、肉(動物性食品)よりも、野菜・豆などの植物性食品に置き換えるダイエット法が、がん患者(少なくとも大腸がん患者)にとってベストである可能性があります。
もちろん今後のさらなる大規模な研究が必要ですが、「診断後の食事パターンで生存率が変わってくる」という新たなエビデンスとして重要な研究結果であると考えられます。