「がんは気持ちで治る?」病気を楽天的に考えることで生存期間が延長
むかしから「病は気から」と言いますが、がんについてもあてはまりそうです。
がん患者さん(がんサバイバー)の中には、病気の見通しについて「きっと悪くなって死んでしまう」と悲観的に考える人と、「大丈夫、なんとかなるさ」と楽天的に考える人がいます。
わたしの経験上、後者(楽天家)のほうが、がんを克服して、長生きする人が多いと感じています。
ただ、これまでに、病気のとらえ方(考え方)とがんの生存率との関係についての研究は少なく、「楽天的ながん患者のほうが長生きする」というエビデンスはありませんでした。
今回、2千人以上のがんサバイバーを対象とし、病気のとらえ方(楽天的、現実的、および悲観的)と生存期間との関係を調査した研究結果を紹介します。
がんサバイバーにおける病気のとらえ方(楽天的、現実的、および悲観的)と生存期間との関係
Optimistic, realistic, and pessimistic illness perceptions; quality of life; and survival among 2457 cancer survivors: the population-based PROFILES registry. Cancer. 2018 Sep 1;124(17):3609-3617. doi: 10.1002/cncr.31634. Epub 2018 Sep 7.
【対象と方法】
がん患者(サバイバー)の治療後における精神的・心理的影響を調べる登録制のデータベース(PROFILESレジストリ)から、2457人のがんサバイバー(診断後5年未満)を対象としました。
がんの種類は、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、子宮体がん、卵巣がん、および非ホジキンリンパ腫でした。
病気認知に関するアンケート調査(BIPQ)のスコアにより、病気(がん)に対するとらえ方(考え方)を、楽天的(optimistic)、現実的(realistic)、および悲観的(pessimistic)に分類しました。
この3つのグループにおける生活の質および生存期間(全生存率)を比較しました。
【結果】
■ がんサバイバーは、楽天的(582人)、現実的(1230人)、および悲観的(645人)に分類されました。
■ 楽天的な人は、現実的な人に比べ、より高齢で、男性が多く、結腸がん患者が多く、ステージが低く、併存疾患(他の病気)が少なく、仕事をしていない人が多い傾向がありました。
■ 悲観的な人は、現実的な人に比べ、より若く、女性が多く、教育水準が低く、直腸がん患者が多く、併存疾患が多く、パートナーを持っている人が少なく、放射線治療を受けている人が多い傾向がありました。
■ 楽天的な人では、たとえ病気の予後(見通し)について非現実的であっても、生活の質および生存率が最も高く、現実的な人にくらべ、全ての死因による死亡リスクが約30%低くなっていました(下図)。
■ 一方、悲観的な人では最も生存率が低く、現実的な人にくらべ、死亡リスクが50%も高いという結果でした(下図)。
【結語】
以上の結果より、病気(がん)について楽天的に考えることは生存率の向上につながり、逆に悲観的に考えることは生存率の低下につながる可能性が示唆されました。
しかし、この研究の限界として、様々ながん患者さんを対象としているため、グループ間でのがんの種類、ステージ、併存疾患の数などが異なっていることがあげられます(これらの因子が生存率に影響している可能性は否定できません)。
たとえば、悲観的なグループでは、併存疾患(同時に抱えている病気)が多いことが生存率が低い理由になっているかもしれません。
したがって、今回の結果を検証するためには、より大規模で、がんのタイプなど背景が統一されたグループ間での比較が必要だと考えられます。
まとめ
今回の研究の結果からは、楽天的ながんサバイバーは、現実的あるいは悲観的なサバイバーよりも長生きするということが示されました。
病気についてのとらえ方・考え方で、がんの予後が変わる可能性があることをデータで示した貴重な研究であると思います。
やはり、がん患者さんは、病気のことを悲観的にくよくよ悩むより、「大丈夫、なんとかなるさ」と楽天的に考える方がいいようです。