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トリプルネガティブ乳がんに新しい治療法:ベリパリブ+カルボプラチン

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乳がんは、遺伝的および臨床的に不均一であることより、個々の症例に最も適した治療法をみつけることは困難になっています。

特に、エストロゲン、プロゲステロン、HER2(ハーツー)受容体がいずれも陰性であるトリプルネガティブ乳がんは、ホルモン療法や抗HER2療法の効果が期待できないため治療の選択肢が限られており、特に、アントラサイクリン系薬剤、タキサン系薬剤を使用した後に増悪した患者さんを対象とした治療法開発への期待が世界で高まっています。

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に発表された論文は、乳がん(とくにトリプルネガティブ乳がん)に対して新たな組み合わせであるベリパリブとカルボプラチンの併用療法が有効であることを示しました。

乳がんに対するベリパリブとカルボプラチン併用の術前化学療法の有効性

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この試験(I-SPY 2試験)のデザインは、腫瘍の直径が2.5cm以上でステージIIまたはIIIの乳がん患者を対象とし、実験的レジメン(抗がん剤の組み合わせ)と治療効果の高いサブタイプ(分子マーカーによって分類した乳がんのタイプ)を一致させることを目的として、乳がんに対して多数の実験的レジメンのスクリーニングを行うものです。

Adaptive Randomization of Veliparib-Carboplatin Treatment in Breast Cancer. N Engl J Med. 2016 Jul 7;375(1):23-34. doi: 10.1056/NEJMoa1513749.

今回、ポリADP-リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤ベリパリブとカルボプラチンの併用治療をHER2陰性の乳がん患者について検討しました。治療効果の判定には、病理学的完全奏効(顕微鏡による検査でがん細胞が完全に消失)を評価しました。また、治療中にMRIで測定された腫瘍体積の変化から、患者が病理学的完全奏効を占めかどうかを予測しました。

結果は以下の通りでした。

トリプルネガティブ乳がんに対して、ベリパリブ+カルボプラチンの併用療法は、第III相試験で成功率88%と予測された。
●77名をベリパリブ+カルボプラチン併用群に、44名をコントロール群に無作為に割りつけた。
●化学療法終了時におけるトリプルネガティブ乳がん患者での病理学的完全奏功率の推計値は、ベリパリブ+カルボプラチン併用群で51%、コントロール群で26%でした。
●ベリパリブ+カルボプラチン併用群の毒性はコントロール群よりも高かった。

以上の結果より、標準治療にベリパリブ+カルボプラチンを追加することで、標準治療法単独と比べて、病理学的完全奏功率が、とくにトリプルネガティブ乳がんの患者で高くなることが示されました。この治療法が、術前化学療法として有効である可能性があります。

トリプルネガティブ乳がんに対する新規治療薬、PARP阻害剤とは?

ポリADP-リボースポリメラーゼ(PARP)とは、DNAの修復に関与する酵素です。DNA損傷に伴い活性化され、1本鎖DNAへのADP-リボース残基に働きかけDNAの損傷を修復します。抗がん剤で傷つけたがん細胞のDNA修復にも関わると言われており、抗がん剤の治療耐性化にも関与すると考えられています。

PARP阻害薬とは、遺伝性乳がんや卵巣がんの原因遺伝子であるBRCA1/2の機能不全によってがん化した細胞に対して、特異的に細胞死を誘導することを目的に開発が進められている分子標的薬です。

国内では、トリプルネガティブ乳がんに対するPARP阻害薬オラパリブ(国内外未承認)を用いた医師主導治験が行われています(アンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤の治療歴を有する Triple negative typeの手術不能・再発乳がんに対するEribulin併用のOlaparib第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験)。

今後、トリプルネガティブ乳がんに対しては、PARP阻害剤を中心としたより効果的な治療法の導入が期待されます。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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