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ヒアルロン酸はがんを進行させる?新しい治療のターゲット

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ヒアルロン酸はからだのあちこちに存在する成分で、お肌のハリやうるおいを保つために必要な成分であるため、化粧品やサプリメントなどに使われています。

また、膝の痛みをやわらげる治療として、ヒアルロン酸注射が行われています。

このように、ヒアルロン酸は皮膚や関節の潤滑油として重要です。

ところが、これまでの研究の結果、ヒアルロン酸はがんの発生や進行とも深く関わっていることが明らかとなってきました。すなわち、少なくともある種のがん(膵臓がんなど)においては、ヒアルロン酸はがんを進行させる悪役のはたらきをしているのです。

今日は、がんとヒアルロン酸との関係についてお話しします。

ヒアルロン酸とは?

ヒアルロン酸は、数万~数百万の分子量からなる非常に大きな(高分子の)多糖体で、コラーゲンと同様に「細胞外マトリックス」という細胞の外側を満たす成分の一つです。

ヒアルロン酸はからだ全体に存在しますが、とくに皮膚、関節、眼の硝子体(しょうしたい)という部分に多く分布しています。特に、からだ全体のヒアルロン酸のうち、およそ50%は皮膚に含まれているそうです。

ヒアルロン酸の特徴は、高い水分保持力と粘性(ねばりけ)をもっているということです。したがって、関節の潤滑油として働いたり、お肌の弾力性や柔軟性を保つといった役目をはたしていると考えられています。

ヒアルロン酸は、体内で絶えず合成・分解を繰り返して調節されていますが、お肌のヒアルロン酸は年齢とともに減少(20歳時に比べると、60歳で1/2、80歳で1/6)することが報告されています。

そこで、お肌の潤いやハリを保つ(いわゆる美肌)目的、または膝関節炎などの症状をやわらげる目的で、様々なヒアルロン酸を配合したサプリメントが開発され、市販されています。

ヒアルロン酸はがんを進行させる!

ヒアルロン酸は、正常の組織では産生と分解のバランスにより一定量に保たれています。
一方、多くのがんではヒアルロン酸が異常に多くなっています。実際に胃がん、大腸がん、膵臓がん、乳がんなど、様々ながん組織を調べると、大量のヒアルロン酸が蓄積していることが分りました。

また、がんのヒアルロン酸が多い患者さんの方が、ヒアルロン酸が少ない患者さんよりも予後が悪い、つまり生存期間が短いことが報告されています。

さらに、細胞を使った実験や動物実験により、ヒアルロン酸(とくに低分子のヒアルロン酸)が直接がん細胞の増殖、遊走(運動)、浸潤(しんじゅん)、転移、および血管新生を促進することが分かっています。

例えば、低分子ヒアルロン酸を培養している膵臓がん細胞に加えると、遊走能(運動する能力)が高まり、下の図のように膜を通過するがん細胞が増えることがわかります(私たちが報告した研究データの一部)。

ヒアルロン酸による膵癌細胞の遊走刺激

Oncotarget, 7:4829-4840. 2016 より引用(一部改変)

つまり多くのがんで、「ヒアルロン酸は、がんの進行を早める」ことが明らかとなってきました。

ヒアルロン酸をターゲットにした新しいがん治療

がんにおけるヒアルロン酸の重要な役割を考えると、ヒアルロン酸をターゲットにした新しい治療戦略が考えられます。例えば下の図のように、3つの治療アプローチが考えられます。

① ヒアルロン酸の産生を阻害するアプローチ
② ヒアルロン酸とレセプターとの結合およびシグナル伝達を阻害するアプローチ
③ がんのまわりの組織(間質:かんしつ)のヒアルロン酸を除去する

 

ヒアルロン酸をターゲットとした治療戦略

膵臓 2016; 31; 128-134.より引用(一部改変)

このうち、最近、特に③のアプローチ法がクローズアップされています。

がんのまわりの組織(間質)に蓄積したヒアルロン酸は、がん組織の内部の圧を高くし、血管をつぶし、結果的に抗がん剤のがん細胞への到達を阻害すると考えられています。

つまり、がん患者さんに抗がん剤を全身投与しても、ヒアルロン酸がじゃまでがん細胞まで抗癌剤が行き届かないため、効果が十分に得られていない可能性があります

したがって、このヒアルロン酸を除去することにより、抗がん剤ががん細胞へ届きやすくなり、治療の効果が高まることが期待されます

実際、ヒアルロン酸を除去する酵素製剤であるPEGPH20(ペグ化されたヒトリコンビナント分解酵素)は、膵臓がんの動物モデルを用いた実験で、ジェムザールなどの抗がん剤の効果を著しく高めることが報告されました。

現在アメリカを中心に、海外においてこの分解酵素(PEGPH20)と他の抗がん剤との組み合わせの治療効果について、進行した膵がんに対して臨床試験が行われており、良好な結果が報告されつつあります(進行膵臓がんに対するPEGPH20と抗がん剤の併用治療についてのフェーズ2試験結果についてのプレスリリース)。

今後、日本でも膵臓がんの治療薬として承認される可能性があります。

このように、ヒアルロン酸をターゲットとした治療戦略は大変有望であり、今後全く新しいがん治療法の開発へつながる可能性があります。

参考文献

佐藤典宏.ヒアルロン酸をターゲットにした膵癌治療の最前線. 膵臓 2016; 31; 128-134.

Sato N, Kohi S, Hirata K, Goggins M. Role of hyaluronan in pancreatic cancer biology and therapy: Once again in the spotlight. Cancer Sci. 2016 May;107(5):569-75. doi: 10.1111/cas.12913. Review.

Sato N, Cheng XB, Kohi S, Koga A, Hirata K. Targeting hyaluronan for the treatment of pancreatic ductal adenocarcinoma. Acta Pharm Sin B. 2016 Mar;6(2):101-5. doi: 10.1016/j.apsb.2016.01.002. Review.

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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