術前の予後栄養指数(PNI)が消化器がんの術後合併症と生存期間を決める!
みなさんは、がんの手術がうまくいくかどうか(つまり術後合併症や生存期間)を決める上で重要なことは何だと思いますか?
がんの手術の成績を決める因子としては、一般的には手術をする側の因子(例えば術者の腕や経験値)がクローズアップされます。もちろん術者の腕も手術の成功には欠かせませんが、実は、患者さん側の因子のほうがむしろ大事なのです。
特に、がん患者さんでは術前の栄養(免疫)状態が手術の成功を決めるもっとも重要な因子であることがわかってきました。つまり、術後の成績は、(少なくともある程度は)すでに術前から決まっているということです。
今回は、色々な消化器がんの手術における術前の栄養状態と術後合併症や予後についての関係について最近の研究結果を中心に解説します。
栄養状態の指標、予後栄養指数(PNI)とは?
栄養状態を評価する指標には様々なものがありますが、その中でも、栄養状態とよく相関し、多くの研究に使われているのが予後栄養指数(Prognostic Nutritional Index: PNI)です。
このPNIですが、小野寺博士が考案した指標であり、
PNI =(10×Alb)+(0.005×TLC)
の式で計算できます。ちなみに、Albは血清アルブミン値(g/dL)で、TLCは総リンパ球数(/マイクロリットル)です(総リンパ球数は、白血球数Xリンパ球の割合で計算できます)。
例えば、血清アルブミン値が4.2g/dLで、白血球数が8000/μl(リンパ球30%)の場合、総リンパ球数は8000 X 0.3 = 2400となりますので、PNI = (10 X 4.2) + (0.005 X 2400) = 54となります。
つまりPNIは、血液中のアルブミンというタンパクの量と、免疫力に関係するリンパ球の数を足したもので、栄養状態と免疫力を同時に評価できるすぐれた指標なのです。
このPNIが高ければ高いほど栄養(免疫)状態がいい(低ければ悪い)ということになりますが、一般的には正常値(栄養障害のない患者さん)は50〜60です。
また、消化器がんの手術において、消化管の切除・吻合(つなぎなおすこと)が必要な場合、PNIが45以上であれば「手術可能」、40<PNI<45だと「注意が必要」、またPNIが40以下だと「切除・吻合は禁忌(きんき:危険なのでしてはいけない)」とされています。
消化器がん患者における術前予後栄養指数(PNI)と術後成績との関係
多くのがん(特に消化器系のがん)で、術前PNIと術後合併症の発生率および術後生存期間(予後)との関係が指摘されています。今回は、このうち主なものを挙げて説明します。
胃がん患者における術前PNIと術後の短期および長期成績の関係
Nutritional predictors for postoperative short-term and long-term outcomes of patients with gastric cancer. Medicine (Baltimore). 2016 Jun;95(24):e3781. doi: 10.1097/MD.0000000000003781.
名古屋大学の神田先生らは、手術を行ったステージIIとIIIの胃がん患者260人について、術前のPNIと術後の生存期間との関係を調査しました。
その結果、
■ 術前PNIの平均値は47.8でした。
■ 多変量解析の結果、術前PNI < 47は、手術時間(4時間以上)、輸血とともに、術後合併症の発生を予測する独立した因子でした。
■ 術前PNI < 47のグループでは、PNI ≥ 47のグループに比べ、全生存期間と無再発生存期間がともに短い(長期予後が悪い)という結果でした。
■ PNI < 47のグループでは、血行性の転移(血管へがん細胞が入り、血液の流れに乗って全身の臓器に転移すること)による再発が多くみられました。
■ 多変量解析では、術前PNI < 47と胃全摘術の2つが独立した予後不良因子でした。
以上より、胃がん患者では、術前のPNIが低いと術後の合併症が増え、また長期成績(予後)が悪くなるという関係性が示されました。
大腸がん患者における術前PNIと術後の短期および長期成績の関係
Impact of the prognostic nutritional index on the recovery and long-term oncologic outcome of patients with colorectal cancer. J Cancer Res Clin Oncol. 2017 Feb 27. doi: 10.1007/s00432-017-2366-x. [Epub ahead of print]
この後ろ向き研究では、3569人の手術を受けた大腸がん患者を対象とし、術前のPNIと術後合併症の発生率、入院期間、無再発生存期間、および全生存期間との関係について解析しました。
その結果、
■ PNIが低くなるにつれ、術後合併症の発生率が高くなり、入院期間が延長していました。
■ PNIが低い患者では、より生存期間が短くなっていました(下図)。
■ PNIが50以上の患者では、術後の合併症が少なく、入院期間も短くなっていました。
■ PNIが50以上の患者では、生存期間が著明に長くなっていました。
J Cancer Res Clin Oncol. 2017 Feb 27. doi: 10.1007より引用、一部改変
以上の結果より、大腸がんの患者では、術前のPNIが低い場合、術後合併症が増加し、入院期間が延び、また予後が悪くなるという結果でした。
さらに、この他にも、喉頭がん、肝細胞がん、膵臓がん、腎細胞がんなど、様々ながんで術前PNIの低下と予後不良との関係が示されています。
術前に栄養(免疫)状態を改善するには
多くのがん患者さんでは、様々な理由によって栄養状態が悪化しています。
栄養状態の指標にはいろいろありますが、一般的にはPNIが45以下、または血清アルブミン値が3.5 g/dL以下では栄養状態が低下していると考えられます。
このような患者さんでは、術前に良質のタンパク質を摂取し、出来るだけ低アルブミン血症を改善しておくことが大切です。
食欲がない方や、消化管のがんで食事があまり摂れない患者さんなどでは、病院で高タンパク質の経管栄養剤(エンシュアリキッド、エンシュアHなど)を処方してもらうのもいいでしょう。
また、抗炎症作用があるEPA配合の栄養機能食品(プロシュア)や、免疫強化栄養剤(インパクト)などが市販されていますので、試してみるとよいでしょう。
プロシュア
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Nestle(ネスレ) インパクト ミルクコーヒー味 ( EPA DHA アルギニン) 介護食 栄養補助食品 (125ml×24本セット)
さらに、栄養状態の低下とともに、筋肉量および筋力の低下(サルコペニア)を合併している場合には、さらに生存率が低下することが示されています。
したがって、術前に少しでもサルコペニアを改善することが必要です。
サルコペニアを防止あるいは改善させるためには、プロテインの摂取とレジスタンス運動をおすすめしています。
詳しくは、こちらの記事をどうぞ。