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がん患者さんを襲う緊急事態オンコロジカル・エマージェンシーとは?

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オンコロジカル・エマージェンシーとは、がん(悪性腫瘍)そのものが原因でおこったり、がんの治療の結果、命をおびやかす急性の病態のことをいいます。

なかには死亡につながる重篤なものが含まれるため、これらの初期症状に気付き、できるだけ早く医療機関を受診する必要があります。

このオンコロジカル・エマージェンシーについてはご存じないがん患者さんもいらっしゃると思いますので、詳しく解説します。

オンコロジカル・エマージェンシーとは?

オンコロジカル・エマージェンシー(Oncological emergencies)とは、がん患者さんにみられる、「悪性腫瘍またはその治療が原因でおこる、急性の生命をおびやかす病態」と定義されています。

つまり、がんが進行することによって急に発症する合併症や、治療の副作用でおこる緊急事態のことです。

すべてのがん患者さんには、さまざまなオンコロジカル・エマージェンシーがおこるリスクがあります。また早期に対応できない場合、死亡することも少なくありません。

したがって、可能性があるオンコロジカル・エマージェンシーについては家族と共に確認しておき、すぐに対処できるようにしておくことが大切です。

ここでは、おもに消化器腫瘍の患者さんにみられるオンコロジカル・エマージェンシーについて解説します。

消化器腫瘍患者にみられるオンコロジカル・エマージェンシー

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好中球減少性発熱(NF)

進行した消化器がんの患者さんのほとんどは抗がん剤治療を受けていますが、その副作用の中でも比較的多いのが骨髄抑制(骨髄の血液細胞に対する障害が原因で血球が減少すること)です。

骨髄抑制のうち、好中球が減少することによって急に38℃を超えて発熱することがあり、これを好中球減少性発熱(neutropenic fever: NF)といいます。

その診断基準はまちまちですが、好中球数が1,000/μL未満の場合を好中球減少とし、また好中球数が500/μL未満の場合(あるいは500/μL未満に減少することが予測される場合)には重症の好中球減少と定義されています。

肺や心臓に持病がある患者さんや、肝機能や腎機能障害がある患者さんに好中球減少性発熱がみられた場合には、入院が必要となる合併症を引き起こすことが多くなるため、とくに注意が必要です。

好中球減少性腸炎(NE)

好中球減少性腸炎(neutropenic enterocolitis: NE)とは、抗がん剤治療による生命をおびやかす腸管粘膜損傷であり、好中球の減少と、微生物の侵入を防ぐ体の防御システムの崩壊を伴います。

白血病など血液がん患者に多くみられますが、消化器がんのように固形腫瘍の患者さんでも起こります。好中球減少がある患者さんに発熱と腹痛(通常、右下腹部痛)が見られた場合には本症を疑います。

死亡率はきわめて高いのが特徴で、多くは敗血症が死因となります。

播種性血管内凝固症候群(DIC)

播種性血管内凝固症候群(DIC)は、がん等の基礎疾患が原因でおこる致死的な合併症であり、血液凝固(血液を固める働き)と線溶(血栓を溶かす働き)機能が異常に亢進することによっておこります。

その結果、あちこちの小さな血管で血栓がつまって臓器障害が起こったり、出血がおこったりします。

急性白血病の患者さんで最も多くおこりますが、膵臓がんや胃がんなどの固形がんでもみられます。転移をみとめる進行がん患者の10~15%に、DICのなんらかの徴候がみられるとしています。

脊髄圧迫(SCC)

脊髄圧迫(spinal cord compression: SCC)は、がん患者さんのおよそ5%にみられると報告されており、多くはがんの脊椎転移(骨転移)からの硬膜外への浸潤によっておこります。

痛みやそれに引き続いての神経機能の喪失(感覚や運動能の消失など)がみられます。早期に診断することによって、神経機能の障害を最小限にできる可能性があります。

脳転移

消化器がんでは脳転移は比較的少ないですが、脳転移は命にかかわる病態であるため注意が必要です。

脳転移は、おもに脳圧が亢進することによる症状(頭痛、吐き気、嘔吐など)をもたらします。また、転移した部位によっても症状が異なります。

小腸閉塞

消化器腫瘍は、しばしば小腸の閉塞を引き起こします。これは腫瘍自体が腸を塞ぐこともありますし、外側から圧迫して腸を塞ぐこともあます。

また、腹膜に散らばったがんの転移(腹膜播種)が小腸を閉塞することもあります。

消化器がんの患者さんにはげしい腹痛、嘔吐、便秘などが見られた場合には小腸閉塞を疑います。

急性消化管出血

消化管出血は、胃がんや大腸がんなどの患者さんに比較的多い合併症で、腫瘍の浸潤、治療の反応、血管障害およびDICなどの全身的合併症が原因でおこることがあります。

吐血や下血によって発症します。抗がん剤治療の影響で出血が止まりにくい状態の場合もあります。

緊急の内視鏡による止血術、血管造影による血管塞栓術、緊急手術などが行われますが、出血の臓器や部位によっても治療法は異なります。

高カルシウム血症

高カルシウム血症は、がん患者に見られる最も多い緊急の代謝異常です。乳癌、腎がん、肺がんなどに多いですが、食道がんなどでもみられることがあります。

カルシウム値がかなり高くなるまで症状はないことが多く、ある程度に達すると疲労感、衰弱、昏睡などが出現します。また不整脈などの心臓の異常を伴うこともあります。

高カルシウム血症を合併したがん患者さんの予後は悪いとされています。

肺血栓塞栓症(PTE)

がんの患者さんは凝固が亢進しており、このため静脈血栓ができやすい状態にあります。静脈にできた血栓が肺の血管につまると肺血栓塞栓症(pulmonary thromboenbolism: PTE)をひきおこし、時に致命的となります。

症状は無症状からショック状態や突然死まで幅広いのが特徴ですが、最も一般的な症状は安静時の呼吸困難です。

まとめ

このように、がん患者さん(とくに進行がんの場合)では様々なオンコロジカル・エマージェンシーがおこるリスクがあります。可能性のある病態を主治医から教えてもらい、家族と情報を共有することが望ましいと考えられます。

 

参考文献

Prenen K, Prenen H. Oncological emergencies associated with gastrointestinal tumors. Ann Gastroenterol. 2015 Oct-Dec;28(4):426-30.


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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