乳がんの自然退縮(治癒)はあるのか?日本からの症例報告

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乳がんは、女性がかかる割合(罹患率)がトップのがんであり、その罹患率は世界的に増加傾向にあります。2014年には日本における乳がんの年間死亡者数は1.3万人を超えました。

近年の新たな抗がん剤や分子標的薬の登場により、乳がんに対する治療の選択肢は増えてきました。しかし、小林麻央さんのように、転移をともなう進行がんでは未だに治癒が難しい例があります。

一方で、非常にまれではありますが、乳がんが自然に治癒する、いわゆる自然退縮例も報告されています

今回、乳がんの自然退縮例が日本の施設から報告されましたので紹介します。

乳がんの自然退縮例:症例報告

Spontaneous breast cancer remission: A case report. Int J Surg Case Rep. 2016;25:132-6. doi: 10.1016/j.ijscr.2016.06.017. Epub 2016 Jun 25.

症例は、44歳の女性で、左乳がん(T2, N1, M0: stage IIB)に対して、乳房温存手術を行いました。エストロゲンレセプター(ER)陽性でプロゲステロンレセプター(PgR)は陰性でした。

術後に補助化学療法(シクロフォスファミド、ドキソルビシン、5-FU、ドセタキセルの併用)とホルモン療法(LH-RHアゴニスト)を行いました。

その後10年以上にわたり、再発や転移などなく経過良好でした。

ところが11年目に撮影したCTで、左乳房に新たに腫瘤(しこり)が発見されました。

超音波検査では腫瘤は13 × 9 × 12 mmで、穿刺吸引細胞診検査(細胞の顕微鏡検査)にて悪性(がん)と診断されました。

以上の検査より、新たに発生した左乳がんと診断されました。

この検査の1ヶ月後、患者はしこりが小さくなったと感じました。超音波検査を再度おこなったところ、腫瘍は10 × 7 × 4 mmと縮小していました(下図)。

乳がん自然退縮エコー

その翌日、確定診断のために切除生検が行われました。

ところが、切除した腫瘤の病理(顕微鏡)検査の結果、腫瘍細胞はなく、およそ10 × 10 mmの領域に線維化とリンパ球の浸潤が存在するのみでした。さらに腫瘤の中央部には壊死(組織の死)がみられました。

本症例では、細胞の検査で確かにがんと診断されましたが、およそ1ヶ月後に切除した標本ではがんは消失していましたつまり、治療を受けずに乳がんが自然退縮したと考えられました。

乳がんの自然退縮のメカニズム

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過去の文献を調べてみると、乳がんの自然退縮例は、以前にも報告されています。例えば、Larsenらは、1999年に文献検索によって32例もの乳がんの自然退縮例を報告しています。比較的まれではありますが、本症例のような乳がんの自然退縮例は確かに存在するようです。

では、がんが自然退縮する原因(メカニズム)は何でしょうか?

今回の症例における自然退縮のはっきりとした原因は不明ですが、一般的にがんが自然治癒するメカニズムとしは、免疫のはたらきが最も関与している可能性が高いと考えられます。

切除した組織の顕微鏡検査においてリンパ球の浸潤がみられたことは、免疫細胞によるがんの攻撃を裏付ける所見であると考えられます。

免疫が乳がんの治癒に重要な役割を果たしていることは、他の研究からもうかがます。

例えば以前に紹介しましたが、NK細胞をはじめとする免疫システムがトリプルネガティブ乳がんの予後を決定する因子であると報告されています。

 

乳がんの治癒には、やはり免疫システムの活性化が重要なようです。

 


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