乳がん 抗癌剤・分子標的薬

トリプルネガティブ乳がんにイパタセルチブ+パクリタキセル併用が有効:第2相臨床試験

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トリプルネガティブ乳がんは比較的若い女性に多く、エストロゲン、プロゲステロン、およびHER2(ハーツー)がすべて陰性の(発現していない)予後不良のがんです。

局所進行や転移をともなった状態で見つかることも多く、他のタイプの乳がんと比べて進行が早いとされています。またホルモン療法やハーセプチンなどのHER2標的の分子標的薬の効果が乏しいため、治療の選択肢が限られています。

したがって、トリプルネガティブ乳がんに有効な新たな治療薬の開発・導入が待たれています。

がんで活性化されている細胞シグナル経路のうち、PI3K/AKT経路があります。このPI3K/AKT経路は、乳がんでしばしば活性化されており、トリプルネガティブ乳がんの治療標的として注目が集まっています

今回、トリプルネガティブ乳がんの初回治療について、新たな分子標的薬である経口AKT阻害剤イパタセルチブとパクリタキセル併用療法の有効性を調査した第2相ランダム化比較試験の結果が報告されました。

トリプルネガティブ乳がんに対するイパタセルチブ+パクリタキセル対プラセボ+パクリタキセルのファーストライン治療:多施設、ランダム化二重盲検プラセボ比較第2相臨床試験(LOTUS)

Ipatasertib plus paclitaxel versus placebo plus paclitaxel as first-line therapy for metastatic triple-negative breast cancer (LOTUS): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2017 Aug 8. pii: S1470-2045(17)30450-3. doi: 10.1016/S1470-2045(17)30450-3. [Epub ahead of print]

本試験はランダム化プラセボ対照比較試験であり、局所進行あるいは転移性のトリプルネガティブ乳がんの患者を対象とした国際第2相臨床試験(韓国、米国、フランス、スペイン、台湾、シンガポール、イタリア、ベルギーなどで実施)です。

124人の未治療のトリプルネガティブ乳がん患者が登録され、イパタセルチブ(経口AKT阻害剤)+パクリタキセル群(62人)またはプラセボ+パクリタキセル群(62人)にランダムに割り付けられました。

主要評価項目は、全体における無増悪生存(progression-free survival)と、PTENの発現が低いグループ(つまりPI3K/AKT経路が活性化されているグループ)における無増悪生存としました。

おもな結果を示します。

■ 無増悪生存期間は、プラセボ+パクリタキセル群では4.9ヶ月であるのに対し、イパタセルチブ+パクリタキセル群では6.2ヶ月と40%も死亡率が減少(ハザード比0.60)していました(p=0.037)(下図)。

イパタセルチブパクリタキセル無増悪生存

■ PTENの発現が低いグループ(48人)におけるサブグループ解析では、プラセボ+パクリタキセル群では3.7ヶ月であるのに対し、イパタセルチブ+パクリタキセル群では6.2ヶ月と41%も死亡率が減少(ハザード比0.59)していました
■ 最も多い副作用(臨床的に問題となるグレード3以上)は、下痢(イパタセルチブ群で23%、プラセボ群で0%、好中球数減少(イパタセルチブ群で8%、プラセボ群で6%)、および好中球減少症(イパタセルチブ群で10%、プラセボ群で2%)でした。イパタセルチブによる腸炎、グレード4の下痢、また治療関連死はありませんでした。
■ 重度の副作用は、イパタセルチブ群の28%、プラセボ群の15%にみられました。

以上の結果より、トリプルネガティブ乳がんに対するイパタセルチブとパクリタキセルの併用療法は、比較的安全であり、無増悪生存期間を有意に延長することが示されました。

今後さらなる追跡調査やより大規模の第3相臨床試験が行われ、イパタセルチブのトリプルネガティブ乳がんに対する有効性が確立されることが期待されます。

 

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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