手術 膵臓がん

術前化学療法(抗がん剤治療)を受けた膵臓がん患者に術後も抗がん剤が必要か?最新研究結果より

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膵臓がんに対しては、手術と化学療法(抗がん剤)や放射線などを組み合わせる集学的治療の重要性が広く認識されるようになってきました。

「切除可能な膵臓がん」や、「ボーダーライン膵臓がん」と呼ばれる切除ができるかどうか微妙な症例に対しては、術前に抗がん剤や放射線治療を行うことが多くなってきました。

日本でも、術前化学療法の有効性を調査する臨床試験(ランダム化比較試験)が行われており、近い将来標準化する可能性があります。

これまで、膵臓がんの術後には補助化学療法を追加したほうが生存期間が延長することは証明されていました。しかし、術前に抗がん剤治療を受けた場合、術後にも抗がん剤を続けた方がよいのかについては不明でした

今回、海外から術前化学療法を受けた膵臓がん患者に術後補助化学療法が必要かどうかについての研究結果が報告されました。

術前化学療法を受けた膵臓がん患者に術後補助化学療法が必要か?

Is Adjuvant Therapy Necessary for All Patients with Localized Pancreatic Cancer Who Have Received Neoadjuvant Therapy? J Gastrointest Surg. 2017 Aug 28. doi: 10.1007/s11605-017-3544-5. [Epub ahead of print]

対象は、局所にとどまる膵臓がんに対して術前化学(放射線)療法を受け、手術をおこなった患者さんです。全部で234人が解析可能でした。

このうち、121人(52%)は切除可能膵臓がんで、113人(48%)はボーダーライン膵臓がんでした。

術前に使った抗がん剤は、FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)が72人(47%)、ゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル(アブラキサン)が20人(12%)などでした。

また、術後の切除標本検査で、92人(39%)はリンパ節転移陽性で、142人(61%)はリンパ節転移陰性でした。

術後、138人(59%)が補助化学療法をうけ、残りの96人(41%)は受けませんでした。術後に使った抗がん剤は、ゲムシタビン(ジェムザール)単独が最も多く、35人(26%)でした。その他、FOLFIRINOXが19人(14%)、ゲムシタビン+ナブ・パクリタキセル(アブラキサン)が18人(13%)、その他でした。

こられの患者の生存期間について調査しました。結果を示します。

■ 全体での解析:

234人全体での生存期間(中央値)は39ヶ月(3年3ヶ月)であり、術後化学療法をうけた患者(42.3ヶ月)と受けなかった患者(34.1ヶ月)との間に有意な差はありませんでした(P = 0.29)。

■ リンパ節陽性例での解析:

リンパ節転移陽性の患者92人に限った解析では、術後化学療法を受けた患者(29.5ヶ月)のほうが、受けなかった患者(23.2ヶ月)よりも有意に生存期間が延長していました(p = 0.02)(下図)

リンパ節転移陽性例術前と術後補助

■ リンパ節転移陰性例での解析:

一方、リンパ節転移陰性の患者142人での解析では、術後化学療法をうけた患者(45ヶ月)と受けなかった患者(45ヶ月)との間に有意な差はありませんでした(P = 0.86)(下図)。

リンパ節転移陰性例術前と術後補助

■ 調節ハザードモデルにおける解析:

調節ハザードモデルを用いた解析によると、術後補助化学療法の追加は、リンパ節転移陽性患者の死亡リスクを61%低下させる(p = 0.002)が、リンパ節転移陰性患者では死亡リスクに影響を与えない(p = 0.68)といった結果でした。

以上の結果より、術前に抗がん剤治療を行ってから手術を受けた膵臓がん患者では、術後の補助化学療法はリンパ節転移が陽性の患者においてのみ生存期間を延長するとしています。

つまり、術前の抗がん剤治療をうけた患者さんで手術の結果リンパ節転移が無かった場合、術後には抗がん剤は必要なくなる可能性もあります。

ただし、今回の臨床研究はいろいろな種類の抗がん剤(レジメン)で治療を行っていることや、後ろ向き研究であることなどの限界もあります。

したがって、今後、より大規模の前向き臨床試験などでさらに調査する必要があると思います。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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