乳がん 抗癌剤・分子標的薬

乳がん脳転移の余命は?分子標的薬の登場によりHER2陽性乳がん脳転移の生存期間が延長

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乳がんの脳転移は全体の10~15%程度にみられ、とくにHER2(ハーツー)陽性およびトリプルネガティブの転移性乳がん患者に多いといわれています。

転移をともなうHER2陽性乳がんの患者のうち、およそ3分の1は最終的に脳への転移を認めると報告されています。

以前は乳がん脳転移症例の予後は不良で、1年生存率は20%以下と報告されていました。また、生存期間も3~6ヶ月程度と非常に厳しい状況でした。

ところが、HER2(ハーツー)をターゲットとした分子標的薬トラスツズマブ(ハーセプチンの登場で、HER2陽性乳がんの治療は劇的に変わりました。さらに、最近では複数のHER2標的薬が開発、導入されつつあります。

今回、「分子標的薬が使える時代になり、予後がきわめて不良であったHER2陽性乳がん脳転移の治療成績(生存期間)は変化したのか?」について調査した研究結果が報告されました。

HER2陽性乳がんに対する分子標的治療

乳がんのうち、およそ20%がHER2(ハーツー:がんの増殖に関係する癌遺伝子のひとつ)が陽性であり、悪性度が高く再発しやすいタイプの乳がんといわれています。

一方で、このタイプの乳がんに対しては、HER2の働きを抑制する薬の効果が期待できることより、ハーセプチンをはじめHER2を標的とした分子標的薬が使われるようになりました。

現在、以下の4種類の抗HER2薬が臨床で使用されています。

(1)トラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)

乳がんに対する最も有名な分子標的薬であり、HER2に結合することにってがん細胞の増殖を阻害する抗体薬です。

2001年4にHER2陽性の転移性乳がんに対する治療薬として承認され、2008年には、HER2陽性乳がんにおける術後補助化学療法が追加適応として承認されました。

(2)ラパチニブ(商品名 タイケルブ)

経口(飲み薬)の抗HER2薬であり、トラスツズマブが効かなくなったHER2陽性乳がんに対して他の抗がん剤(カペシタビン)と同時に使用します。

また、血液脳関門を通過できるため、脳転移した乳がんにも有効であることが確認されています。

(3)ペルツズマブ(商品名 パージェタ)

ペルツズマブはトラスツズマブと同様、HER2に結合することで効果が発揮される抗体薬です。

HER2陽性切除不能・再発乳がんの治療薬として、トラスツズマブおよび抗がん剤(タキソテール)と同時に使用することにより、生存期間を延長することが示されています。

(4)トラスツズマブ エムタンシン:T-DM1(商品名 カドサイラ)

トラスツズマブ エムタンシンとは、トラスツズマブにエムタンシン(チューブリン重合阻害薬)という抗がん剤を結合させた新しいタイプの薬剤(抗体薬物複合体)です。

HER2陽性の手術不能または再発乳がんに対して使用されます。

トラスツズマブとタキサンが効かなくなった転移性乳がんに対して使用すると、ラパチニブとカペシタビンの併用と比較して生存期間が延長されることが示されました。

分子標的薬の時代におけるHER2陽性乳がん脳転移の治療成績(自然史)の変化について

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Changing Natural History of HER2-Positive Breast Cancer Metastatic to the Brain in the Era of New Targeted Therapies. Clin Breast Cancer. 2017 Aug 9. pii: S1526-8209(17)30036-8. doi: 10.1016/j.clbc.2017.07.017. [Epub ahead of print]

米国ノースカロライナ大学のデータベースから、合計123人(平均年齢51歳)のHER2陽性乳がん患者のデータを抽出しました。

治療の時期により、以下の3つのグループに分類しました。

  • 期間1:1998~2007年
  • 期間2:2008~2012年
  • 期間3:2013~2015年

この3つのグループで、全生存期間、初回転移までの期間、脳転移までの期間、および脳転移を認めてからの生存期間を比較しました。

結果を示します。

■ 乳がん診断時からの全生存期間(中央値)は、期間1で3.6年、期間2で6.6年、期間3で7.6年であり、時代とともに改善(延長)していました(P = 0.05)(下図)。

乳がん脳転移年代別生存率

■ 脳転移が診断されるまでの期間(中央値)は、期間1で2.6年、期間2で2.6年、期間3で3.3年と、時代とともに延長していました(P = 0.05)。
■ 脳転移診断時からの全生存期間は、期間によって有意な差はみられなかったものの、HER2標的治療を受けた患者(2.1年では、受けなかった患者(0.65年)に比べ、有意に延長していました(P = 0.001)。

以上の結果より、HER2陽性乳がん脳転移症例の(初回の乳がん診断時からの)全生存期間は時代とともに延長し、およそ7年を超えたこと。

また、HER2標的治療によって、脳転移診断時からの生存期間も延長し2年を超えるまでになったことが示されました。

 

今後、より効果的な分子標的薬の導入により、さらに治療成績が向上することが期待されます。乳がんの脳転移でも、あきらめない時代になりつつあります。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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